オレとご主人サマとプレゼント
「ソーマが僕の横を歩くなんて珍しいねえ」
「いいだろ、別に。依存先が居なくなったら困る!」
いやなんというか、今日はアレなんだ。オレ自身が珍しいと思うくらいご主人と離れたくねえ。気持ち悪いとは思ってるが、手を離したらどっかいってしまいそうだし。
風呂から上がった後一杯話をした。
朝飯を作りながら、背中にご主人を貼り付けて、胸を揉まれながらオレの話をした。そういうことしねえって言ってるのに酷すぎる。
何度となく肘を入れたけど、なんかいつもよりも加減をしてしまった。
錬金術で作られたキメラが肥大化して村落をいくつか滅ぼしたらしい。
何度も復活する相手に苦戦しながらも倒したのは十日を目処に帰ってこれる日数だったようだ。
「なら、なんでさっさと帰ってこなかったんだよ!!」
「えっとねー。それは本当にゴメンとしか!」
頑なに帰ってきたのが遅くなった理由だけは教えてくれなかった。
なんかもう、それだけでしょうもない理由な気がしてきたぞ。理由しったらぶち切れる自信が出てきた。
一体何なんだ。
後街中の視線が目茶苦茶痛い。オレがご主人の腕にしがみついてる形が、なんつーか、マジで微笑ましい物を見る視線が痛い。
しょうがないだろ……理性じゃおかしいってのが分かってるのに、本能が勝手にこうするんだから。乖離が著しすぎる。情緒不安定もいい所だ! またあれか月の日が近いのか!
「ソーマがこうやって甘えてくれるのは嬉しいなあ」
「今日だけだからな」
「うんうん。今日だけでも全然いいよー」
「はあ……それで、今日はどこに向かってるんだ?」
「んー。行きつけの酒場ー」
「そうか」
酒場って事はスィエもいるよなー。あれか一日遅れの祝勝会かー!
でもなんでオレまで含められているんだ。四人でやってくれば良い物を。
道すがら、至る所からソーマちゃん良かったねと声を掛けられた。よかったは良かったのだが、別にもうその言葉食傷気味だ。つうか、どんだけオレ心配かけてたんだ。
後微笑ましい目で見るんじゃ無い! オレのデレ成分は見世物じゃないぞ!!
まあ、正直、仲のいい人達が無事に帰ってきてよかった。ご主人だけじゃなくて、スィエもミセリも……。
「ついたよー!」
「ああ、ついたな」
オレも一度行ったことある。飲み過ぎたご主人がビースト化してオレが泣きを見たところだ。
あの時は何とかご主人を屋敷まで連れ帰ったんだけど、その時も道すがら酷かったからな……。
「酒、程ほどにしてくれよ」
「勿論だよ!!」
「絶対だからな!!」
「勿論だって!」
「我を忘れてオレを目茶苦茶にするなよ……。あれ、マジできつかったんだからな……」
「ごめんって……」
ご主人が酒場の扉を開けながら申し訳なさそうに言っている。分かってるなら良いんだ。飲み過ぎなければいいんだ!
酒場には客はおらず、がらんとしていた。貸し切りにしたのかな?
「ねえ、ソーマ」
「なんだ?」
「やっぱり、僕ソーマがいないとダメみたいだからさ」
「おう」
「ボク達のパーティに入ってよ。ランクはすぐに上げてしまうから」
つまり養殖してやるから、常に随伴しろと。
「そうなの、クリスったらずっとソーマソーマって煩いんだから。攻撃貰っても、ソーマの方が全然いいって」
「そ、そうなのか……」
スィエの説明にどん引きした。どう考えてもご主人のM心を満たせるのは強敵の一撃だろ。オレのは正直無意味だろ……
「ソーマちゃん、これ」
ミセリが、オレに包み紙を渡してくる。
受け取ったそれは下は角張っていて、ずしりと重く、上はふわりした柔らかさがあった。
なんだこれ……? 重さ的には本が数冊って感じだけど。
「開けてみるのです」
「おう」
促されるままに開けると、そこから出てきたのは一着の服と、三冊の魔道書だった。
服はこれ……。
「おい、この服……」
「ソーマが前言ってたでしょ、最初に着ていた服ってこういうのだって」
あれだ、覚えてたのか……。まあ、正直今更なんだけど、女として転生することになったなら一度は着たいな思ってた学生服。デザインオレ。
まさかこんな形で再会するとはな……。
「おまえこれ、どうしたんだ?」
「たまたま見つけてねー。買い付けようと思ったら行商に行っちゃってて追いかけたら戻ってくるのが遅くなったんだ、ごめんね!」
「ふざけんなよ! お前、こんな服一着の為だけに、何してくれてんだよ!」
「熱い、熱い! 魔法はもう使わないんじゃ無かったの!?」
うるせえ……。って、なんだそれ、ご主人傷ついてないじゃん。オレのファイアーボルトがカスダメになってんじゃん。
「どう、凄いでしょ! ソーマの為に魔法抵抗も上げてきた!」
「お前マジで、何やってんだよ……」
苦笑するしかない。オレの攻撃を受けるためだけに魔法防御上げてくる奴いるか、普通。いやまあ、目の前にいるんだけどさあ……。
「よーし、ソーマを驚かせた所で、今日は宴会だよー! 勝利を祝して!」
ご主人が音頭を取る。いつの間にか用意されていたジョッキの中には泡立つエールが人数分注がれていた。
「乾杯!」
しょうがなく、音頭に続いた。杯を打ち付けあい、中身を飲み干す。
久しぶりに味を感じた。美味い……!