オレとご主人サマと無詠唱
鬱だ……。策士策に溺れた。というか、まじで、スィエの魔法講座が分かりやすかったから聞き入っていた。死にたい。
「元気出しなよ、ソーマ。そう言う日もあるってー」
「なんで、止めてくれなかった!」
「えーだってー。どっちに転んでも僕は美味しいしー」
「クソッタレめっ」
とりあえず、魔法の実戦もかねて、ご主人を燃やしておく。
励起にだけ魔力を込めて、後は指向性を持たせた上で生成まで放置か。なんかあれだなー。消費が軽減される代わりに発動までの時間が長くなる感じだ。マクロ組んでるみたいだな。
うーむ、緊急的に使うときは……初等魔法ならいつもの使い方がいいな、これ。早さが段違いだ。発動から発生までのラグがでかすぎる。ご主人がタンクしてるならいいけど、それ以外だと始動も分からないから、完全に無詠唱クソスキルだな。
詠唱は終言が分かりやすいし、それが連携の起点にもなるからなー。むう、格好いいと思ってたけど、案外無詠唱ってソロ専用なんだな……。便利だけど
「熱い熱い熱い。ソーマ! 熱いよ!!」
「嬉しそうに言ってんじゃねー」
燃えたご主人に水をぶっかける。
あーこれが、スィエだったらなあ……オレの白い液体ぶっかけるのに……。ああ、もうでねえよ……。いやでるけど、それはオレの発狂と引き替えだっ!
「うわっ、つめたっ!」
「だーかーらー……はあ、火傷してんじゃん。流石に傷がのこるレベルになってきたから魔法は封印だなあ……」
ランクが上がったせいで、ご主人にダメージを負わせる事ができるようになったのは良いけど、魔法ダメージの通り具合的に消火した後の傷が酷い……。
流石に見てられないし、こんなのをつけて街を歩かせるわけに行かない……。
いくらご主人が喜んでるとは言え、流石にオレの良心が咎める!
「ほれ、ヒールヒール」
「んー、僕はソーマに傷つけられるならどうって事無いんだけどねえ」
「やめろ。今までノーダメだったからオレも心置きなく魔法ぶっ放せたけど、流石に小さくても火傷するなら、今後やらない。オレは、人を怪我させて喜ぶような奴じゃないからな」
流石になあ……。ケロイド状は見るに堪えねーよ。だから、チンコ潰すとかも冗談だし。ぜってーやらない。オレにだって線引きくらいある。
「あはは、ソーマは優しいなあ。僕くらいならいくらでもサンドバッグにしていいのに」
「お前なあ……奴隷にいいようにやられる主人がどこに居る」
「ここにいる!」
「はあ……」
暖簾に腕押し。全くもって柳のような奴だよ、ご主人は。そのくせどっしりした巨木みたいだし。ウドの大木じゃねーんだよなあ。
「よーし、じゃあ、僕ソーマの為に魔法でも傷つかない体を手に入れてくるよ!」
「いや、お前そんなにほいほい手に入るよーなもんじゃねーだろ」
「さあ、どうだろー。連日連夜雷に打たれてみたいし!」
「流石に死ぬだろ……」
「死なないよー。ソーマ残して死ぬとか一番やっちゃいけない事!」
愛が重てえ……。
いや、ご主人が死んだらまた、新しい拠り所探すだけだし……。スィエとかミセリとか。ミセリはお尻から太股のラインが最高なんだよなあ。
「あ、そうだ、さっき連絡がきたんだけど、僕ちょっと暫く留守にするから。一人で大丈夫?」
「当たり前だろ。出稼ぎに行ってこい。後、ハウスキーパーの件忘れるなよ!」
「なんなら、ソーマが選んでてもいいよ」
「それはご主人が決めろ。オレのやることじゃない」
「えー、でもソーマが欲しいっていうからだし」
分かってないな。奴隷が何でもかんでも決めちゃいけないんだよ。
世間から見たら、オレはご主人の奴隷だ。それが自由奔放にしてるだけで、他の使役されている奴隷が羨んだ目をしてくる。買われた奴隷の生き様なんて主人次第だ。だから、できる限り街中じゃ大人しくしてる。平穏に生きていくためには世間体が一番大事なんだよ。
世間体なんて考えずに常日頃からM心を求めてるご主人にはわかんねーだろうけど、奴隷なんてのは、主人の性欲の捌け口や、労働力、愛玩、そういった用途でしか使われない、言わば一つの物だ。意思もつ道具なんだ。
まあ、そう言った意味じゃ、ご主人の性癖を満たすためだけに存在しているオレの役割は間違っちゃあいないんだけどな。
最初から隷属の腕輪も着けられないし、オレは相当恵まれているよ。隷属の腕輪は反意を示さないための服従の証でもあるからな。
「つーか、いつも迷宮行こうとかって誘ってくるのに、今回は置いて行くんだな」
「まあ、危険なところだからねえ。死ぬことは無いけど、ソーマを護りながらって考えると、ぞくぞくしちゃって……!」
「ああ、そうかい。じゃあ、帰ってきたら一杯嬲ってやるよ。流石に魔法は無しな。オレの良心がストレスでマッハだ」
「わあい、やったー!」
しかし、明日から暫くご主人いねーのか。
あれ……、長期で家を空ける事って今まであったか……?