ゆきの子
雪は嫌いです。
冷たくてベチャベチャして、首が痛くなるからです。
でも最近、雪を楽しみにする自分がいることに気が付きました。
朝を告げる鳥の声で、自分の一日は始まります。
とても寒くて布団の中でまるまるけれど動かないでいると困るのは自分なので諦めます。
冬も嫌いです。寒くて心も冷たくなってしまう気がします。ーーそんなことばかりではないと知りましたけど。
誰よりも早く起きてはや着替え。
ちょっと苦労して外に出ます。
積もってふかふかにみえる雪原を踏みしめながら歩きます。
汗だくにならないように気をつけながら歩いていつものところに急ぎます。なるべく汚れた場所をあるくのはお決まりです。
眠気がなくなる頃にはいつものところに着きます。
「柊、柊。いるんだろう?」
悪鬼を払う聖なる木。萎れることなく青々しい葉に口付けます。
「恥ずかしがらずに出ておいで。きみは誰より美しい」
「おしいですね。そこには美しいより凛々しいです」笑みを含んだ声が後ろから聞こえ、慌てて振り向きました。
全然気が付きませんでした。
年齢不詳、性別不明の傾国級の美貌が目の前に立っていました。真っ直ぐな黒髪はその人の足下まで伸びて、どこか鋭いかんばせはなるほど、たしかに凛々しいといえるでしょう。
でも。
「君はやはり美しい」
「……全く。困ったお人だ」
薄く紅に染まる頬。ほら、やっぱり。
くすりと微笑って柊の傍に座ります。勿論濡れないよう敷物も敷いてあります。
「さあ、聞かせて。面白い話を」
「では今日はある銀色の少女の話をしましょうか」
……寒くて寒くて仕方ないけれど。この時間は何よりも大切です。
柊の話は生き生きと輝き、暖かいものを運んでくれます。柊は自分のことは語りません。
けれど、傍に居るだけのこの関係は好きです。
柊との不思議な関係はもう5年以上になりますが、冬にしかあえないのでそんなに長いとは思えません。それにお互いに何も聞いたことがなければ言ったこともないのです。そう。本名すらお互いに名乗りません。
付け合った名は今もこの胸に。
柊との楽しい時間はほんの僅か。
それでもいい。と思うのはおかしいでしょうか。
☆☆☆★★★☆☆☆
「……」
「食べて下さいね」
無視をすると溜息をついて去っていきました。仕方ないのです。
そして銀の棒を取り出し浸します。……反応あり。まあ、今日はいい日です。やはり柊と会うといいことが起こります。いつもはこんなに単純ではありません。
豪華な調度品で飾られたその部屋は監獄に見えるから不思議です。
幼い頃から命を狙われ、大抵の毒は分かるようになりました。ちなみに、体のいい軟禁状態ですがその気になれば抜け出せます。まあどうでもいいことですが。
……明日、とうとう成年になります。
時間切れ、ですね。
☆☆☆★★★☆☆☆
「セツナ・ヴォナ。今までご苦労だった」
「……」
殿下はそう言って猛禽類のように笑った。
海の向こうの王族はまともなのにどうしてこいつはこんな奴なのですか。首元でカチリという音と共に周りを囲まれます。
隷属の首輪。これの命令でずっと働かされました。自由になれるのはそれこそ二時間もありません。
フワリ。私の水色の髪が揺れました。
「今まで、私の身代わりお疲れ様。卑しき奴隷の証はなくなった。憂い無く逝くがいい」
死にたくはありませんが仕方ないです。この数は勝算などありえません。
そっと目を閉じあの佳人の名を呟きます。最後くらい穏やかでありたい。
あのひとの声が聞こえた気がしました。
「雪花」
「ひ、柊?」
「うん、柊」
「なんっでこ、ここに」
「決まってる」
風が吹き荒れます。
ーー目の前に広がるのは黒い翼。柊。完全に悪役です。私を殺そうとした奴らをやっつけてくれるのはありがたいですが、辞めて下さい!
その後。私は黒龍だった柊にさらわれ、妻となりました。本名は長すぎて忘れてしまったので未だに私は柊と呼んでいます。
柊は男でした。ええ。痛い程に思い知らされましたとも。
ずっと好きだったと言われてパニックになったのもいい思い出です。
柊の花言葉は『剛直』『先見の明』
雪の花、スノードロップの花言葉は『慰め』『逆境の中での希望』
スノードロップは逞しいという意味も。
ちなみに柊は黒髪金の目の美青年。穏やかな好青年です。
雪花は水色の髪の中性的な少女。