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「わぉ、勝ちましたね!」
サーシャは驚きの声をあげた。その声を聞いて藁に隠れていたサイも足を震わせながら姿を現した。
「あああ。」
サイは足を大きく切り裂かれて倒れている大男を見て思わず口を塞いだ。アルバは大男にトドメはささず相手の剣だけを拾い上げる。しばらくその剣先を眺めていたが(俺のよりは幾分かましか…)と思い迷惑料としてもらっていくことにした。
「サイおばさん!大丈夫だったか?」
「そりゃ大丈夫だ。わたしは悲鳴をあげただけだし…」
「まぁまぁ、とりあえずここを離れましょう!」
サーシャはそういうと、サイの手を握りアルバの元に向かった。大男は気を失っているのか全く動かなかった。アルバは2人を迎えると無言で、道を進み始めた。
3人は暗闇の中を静かに進んで行く。アルバは少し急ごうといったが、サーシャは首を振った。
「サイおばさんは、まだ恐怖で走ることはできないよ。それに、この付近にはもう私達に危害を加えるようなものはないわ」
サーシャは真面目な顔でアルバに話しかけた。アルバは、そうか…とだけ言い歩調を弱めた。そして、サイに自分の背中に乗るように勧めた。
「いや…いいよ。あたしは…」
「遠慮するなよ!サイおばさん!」
サイは最初嫌がったが、サーシャも勧めたため仕方なく遠慮ふかくアルバの背中に乗った。
「よいっしょ。さぁいこうか!」
アルバはつとめて明るくソウ言うと元気に歩き始めた。
しばらく歩いていると、サイは疲れからかアルバの背中で寝息を立て始めた。アルバとサーシャはそれを聞いて思わず目を合わせて静かに笑い出した。サーシャは、サイの背中をやさしく撫でながら
「やっぱり、疲れていたのね。まぁ、当然か。」
「当たり前だろ…。命狙われたんたぜ。この平和ぼけした国の民には今日のようなことは衝撃だよ」
サーシャの問いにアルバはそう答えた。と、その落ち着いたサーシャをみて彼は再び疑問に感じた。彼女は初めから落ち着いていたし、敵の存在に自分より早く気づいていた。敵の人数や見えないのに細かい情報まで当てている。更には、数々の作戦をたてその通りに事は進んだ。唯一最後は、アルバ自身が作戦を台無しにしてしまったが…
「あんた…なんでそんなに落ち着いてられるんだ?」
「あら、おかしい?」
「だってよ…命狙われたんだぜ…なのに、まったく動じないし…それにあんな作戦つうか罠っていうか…あっと言う間に作って実行しちゃうしよ」
「…。」サーシャは微笑みを浮かべるだけで答えない。アルバは続ける。
「どこかで軍にいたのか?というか、今日の事なんであんなにうまくいったのか教えてくれよ!」
アルバは思い出すように彼女に問いかけた。サーシャは彼の顔から視線を背けながら話し始めた。
「うーん。しょうがないなぁ…。あの人たちのことはは私たちが裏通りに入ったときから、気ぢいていたわ。一人が見張り番として屋根にいたからね。そして、私たちが走るのをやめたときに、見張りとリーダーの4人が接触して私たちのことを値踏みしていたの。ちらほら姿は見えたし。その中で一人だけ歩調がみだれない男がいた。そうリーダーの男よ。すぐに軍の経験者とわかった。だから、私…あなたに勝てない男が一人いるっていったのよ。」
「なるほどな…俺はまったく気づかなかった。というか俺、勝ったし!!」
「あんなのまぐれよ。まぐれ!」
サーシャはすこし不服な顔をしながらそう言う。
「それで、あの罠というか…作戦みたいのは?」
「作戦なんて…大したもんじゃないけど。彼らの目的とリーダー以外の男がチンケだったので、とっても簡単よ。まずまったく統制がとれていないし、一人ひとりの状況判断もできていない。まぁ軍じゃないし当たり前だけどね。」
「なるほど。」
「いい?彼らの目的は私でしょ?もっと言うと私のカラダ。つまり彼らは私を捕まえるまでは必要以上の危害は加えない。それに元々はおそらくは彼らはこの付近に空き巣かなんかで入ったと推測される。つまり、私たちがあらわれたことによって急造で思いついたしょうもない輩だから、相手のとる行動はすごく単純。しかもこのあたりは道が細く入り組んでいるし夜なので暗闇。私が囮になって、こちらの戦いやすい場所に、呼びたい人数だけよびよせればいいんだからこんな簡単なことはないわ。」
サーシャのその言葉でアルバは足を止めた。
「サーシャ。あなたはいったいなんなんだ?なんで旅をしている?」
アルバの真剣な問いにサーシャは答えず
「ふふ。あなたが偉大な戦士になったらわかるんじゃない?」
と不敵な笑顔で答えた…