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「くそ!!いったいどうなってるんだ!!」
夜盗の大男は、混乱で癇癪を起こしていた。ハゲの様子を見に行ったアゴが女の居場所をしらせる声をあげたかと思えば、すぐに悲痛な声が聞こえた。(あれは…死んだ声だ…)大男は、経験からそう判断した。さらに別の場所からも女の助けを呼ぶ声がする。
この不気味な状態が、彼の精神を追い詰めていく。
暗闇の中で、どちらにいけばいいのかわからなくなっていた。しかもあの女はこの暗闇で光を放っていた。もしかしたら…化け物の類かもしれない…。
「お、お頭…。に、逃げましょうよ!これ…なんか変ですぜ!!」
「くっ!!馬鹿野郎!!ここで引けるか!!」
「お、おれは嫌だ!!」
最後にリーダーの大男の横にずっとついていた男は、そう叫ぶと暗闇の中へと逃げようとした。が、急に大男は剣を抜くと、グッさりとその逃げようとした男の背中を叩き切った。
「ぎえーーーーー!?」
その男は、斬られながら大男を睨んだがやがて地面に沈んでいった。「ちっ!」リーダーの大男はそう舌うちすると剣を鞘に収めた。この男とはそんなに長い付き合いでもなかったこともあり躊躇はなかった。裏切り者は許さないというのが彼の信条だ。だが、他の仲間と違ってこの男だけは裏切るようなそぶりがなかったのでそれは残念だったが…。
仲間を切ったことで、大男はなんとなく気持ちが落ち着いた。もはや、自分のことだけ考えればいいのだ。女も独り占めできる…。他の男たちは、それこそチンピラもどきだったが彼は以前、軍に所属していたこともあった。部族というどこの国にも属さない地で、傭兵として戦っていた経験を持っている。
「ふう…」
とりあえず大男は最後に女の声がした方へ向かうことにした。ここから近かった…というのが最大の理由だったが…。
再び剣を抜き、忍び足で声の方へ向かう。この付近の道は小道が複雑に入り組んでいるので、角を曲がるたびに注意が必要だった。さらに建物が無数にあり、上からの攻撃にも意識しなければならない…。
しばらく進むと、かすかに開けた場所があり、そこに馬小屋のような建物が見えた。
大男はその建物に人の気配を感じた。慎重に足を進める。
と、ボッっと明かりがつきそこに女が現れた。金髪の美しい女だった。
だが、大男はその姿に惑わされずに付近を警戒しながらゆっくりと進む。
と、かすかに後ろに気配を感じ剣を素早く後ろに振りかざした!
キーーーーーン!!
と金属音がする。大男が振り向くとそこには、少年…アルバが渾身の剣を振りかざしていた。
「このクソガキが!!」
大男はそう叫ぶと、その体に似合わない速度でアルバを打ち付けてくる。
だが、アルバは落ち着いてその剣を受け止める。大男は次第に狼狽の表情を浮かべ始めた。こんなところで本気を出さなくてはいけないのかと…。しかもこんなガキに…。
アルバも余裕はなかった。スピードは自分の方が微かに上だが、力は完全に負けている。なんとか、スピードと天性の技で押さえ込んでいる状態だった。
「もう…作戦無視して…知らないよ。」
サーシャはアルバを見て呆れたように呟いた。
だが、アルバはひとつひとつの剣を受けながら、落とし所をさがしている最中でその声は届かなかった。だが、段々と力の差がでてくる。相手は実戦になれているのか、すこしでもアルバが態勢をくずすとそこをついてきた。
大男は少しづつ余裕が出てきた。これなら…すぐに追い詰められる。
だが、その瞬間アルバは剣を落とした。と、大男の視線が一瞬剣をみた…その瞬間アルバは大男の剣を蹴り飛ばすと素早く地面に倒れこみ、自分の剣を拾い直すとそのまま大男の足を切った。
「ぐわぁ!!」
大男はその激しい痛みに耐え切れず、転がった。