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HERO  作者: LEGO
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3

ルンという東の街は、カーフィ王宮から東に200kmのところにあった。


比較的海に近い場所にあり、この国には珍しく城壁は高い。また、山の中腹にあり「守る」ということに関しては、カーフィ国で一番適している城と言えた。

今この街には、突然の「山の戦士」に奇襲され、国の方々から命からがら逃げてきた国民で溢れかえっている。一応、守護兵はいるが戦いなぞ経験したことがない素人集団ばかりだ。人々には、特に情報が伝わっているわけはないが、逃げてきた者たちからの話で「山の戦士」が奇襲してきて、王族が一網打尽にされ国が占領されかかっている…という事実だけは理解していた。


街には、不安と恐怖が広がっていた。


「お客さん!お客さん!わたしら逃げますけど…どうします!?」


街のはずれにある安宿の女将が二階の客間にむけて怒鳴っている。国の王宮が陥落し、敵がこの街にやってくるという風潮が蔓延し、この街の首領は民に中央の広場に集まるよう指示が回っている。当然、治安部隊や守護兵もそこに集まるだろう。となると、この街はずれにあるこの辺りは一気に治安が悪くなる。

滅多に客がこないこの宿に運悪く一人の客が滞在していた。


しばらくするとドアが開いて、美しい黄金色の髪と白く美しい顔がチラッと覗いた。


「えっと…もう、敵が攻めてきたんですか?」


「いや、そうじゃないけど。ここはもうすぐ無法地帯になるど。そしたらあんたみたいな綺麗な女性はなにされるかわからんけん!」


「ああ。なるほど。それは勘弁!すぐに荷物まとめますね〜」


「はやくお願いね!中央の広場までいけばとりあえずはいいけん!」


女将は、焦った口調でその客にいうと、落ち着けとばかりに荷物の確認をはじめた。おんな一人で営む宿だ。荷物は、微かな路銀と食料で十分だった。

ふと顔をあげると、宿の門から逃げ惑う人が見える…親から宿を引き継いでから20年、こんな事態になることはもちろん初めてだ。この国は長いこと争いに巻き込まれることがなかったので、事態をまったく想像できない。ただ、街の指示にしたがうことしか誰も思いつかなかった。

ただなかなか降りてこない2階の客を不憫に感じずにはいられなかったが。


その一人の客は、2日前にふらっと一人で現れた。旅の途中だという。美しい女性の一人旅などこのご時世、訳ありとかしか思えなかったが、宿代は一月分前払いで払うというので快く泊めることにしていた。白いローブに身を纏っていたので、旅の神官かにも見えたし悪人にもみえなかったが。


「サイおばさん!!大丈夫か?!!」


急に元気な声がして、男の子が粗末な鉄剣をふりながら宿に入ってきた。歳は15、6だろうか…。布切れをなんとか服にしたような貧しい格好だった。


「アルバ!まだこんなところに…。大丈夫かい?」


「おう!当たり前だ!俺は強いからな!とりあえず逃げようぜ!ここはもうやばい」


アルバと呼ばれた少年は外をチラッと見ながらそう呟いた。アルバは近くに住む孤児だが、宿の女将サイにとって息子のような存在で食事を提供する代わりに力仕事などを手伝ってもらっていた。掃除や壁張り、修繕などだがサイ一人で営むこの宿屋にとって、アルバは欠かせない存在となっていた。


「女将〜。お待たせしました〜。おっと、頼もしい傭兵付きですか?」


そんな時、二階からすっと先ほどの客が降りてきた。金髪に色白で美しい顔をし、体は華奢だ。白いローブをしていたが、体の線が細いことは容易に確認できる。肩に小さなカバンをかけている。アルバは少しの間見とれてしまうほどの美しさだった


「ちょ!?サイおばさん、誰だよ…この人」


「ああ。うちの客だよ。悪いけど…この人も一緒に頼むよ」


アルバはその言葉で面食らった。この付近には金髪など数えるほどしかいない。ましてや全身白のローブなど、良からぬことを考える男たちの格好の標的だ。だが、その客は満面の笑みを浮かべて


「サーシャといいます。どうぞよろしくお願いしますね」


と彼に言った。アルバは少し顔を赤らめて


「俺はアルバだ。よろしく!悪いけど、走るからな!サイおばさんも覚悟しろよ!」


「あは。かけっこは得意ですから大丈夫!」


「あたしもいいよ!」


アルバは2人の声をきいて、大きく頷くと門から外の様子を伺う。粗末な剣を鞘に戻し、逃げまどう人々の隙間を狙っていた。アルバは孤児だったこともあり、何事も一人で行い、判断し生きてきた。街はそれなりに平和だったが、中央から離れたこの場所にはガラの悪い輩は多い。生きるための本能なのかいつの間にか剣を手に取り、山に住むひとりの男に剣の修行はつけてもらっていた。その男は「山の戦士」の一人だ。だから彼らが敵になるという事態はアルバには全く想定外だった。


「よし!今だ!ついてこい!」


人の波の隙間をみつけて、彼はいきなり門の外に飛び出した。サーシャとサイも後に続く。3人が道に出ると、ちょうど中央広場に向かう人々の隙間に入り込んだ格好だった。だが、馬や馬車も走っていてなかなか危険な状態だ。サーシャは、サイの手を掴みアルバに続いた。サイはもうすぐ40を迎えようとしている。対して二十歳そこそこのサーシャと10代のアルバについていくのは少し無理があるのかもしれない。


その様子をなんとなく見ていたアルバは、広い道をしばらく人の波にそって走っていたが、急に人通りのない家と家の隙間に入り込んだ。そこにも細いが道がある。アルバは器用に、その道を進む。


「こっちは誰も知らない中央への近道なんだ。2人とも多少ゆっくりでいけるからな!」


「はぁはぁ、アルバ…悪いねぇ…」


アルバの声に息が絶え絶えのサイが答える。道の周辺には、多くの荷物や井戸、材木などが所狭しと並んでいたが、アルバはその横を器用に進む。多少スピードを落として走っていたが、やはり後ろの2人とは少しづつ距離が開いている。

サーシャはすんなりとアルバについていけたが、サイはやはり苦しそうだ。


「アルバくん〜。おばさんが苦しそう…。少し歩かない?」


「おばちゃん!大丈夫か!!?」


「はぁはぁ、休憩できるなら…少しだけしたいかねぇ…」


サイはそう言うと、その場所でゆっくりと足を止めた。アルバは付近を警戒しながらまわりを見渡したが特になにも見えない。日はすっかり落ちていて、建物の隙間から美しい夜空が広がっていた。アルバはサイの背中を撫でながら、抱え込むように進むことにした。


「アルバくんは優しんだね〜」


その様子を見て、サーシャはアルバにそう微笑んだ。アルバは少し照れながら


「まぁ、サイおばさんは俺の母親代わりだからな…」


と、空を見ながら言う。なにか物悲しそうな彼を見てサーシャは、相手の顔を覗き込んだ。サイはなにも口を挟まず歩くことに集中しているようだった。


「そうかぁ。アルバくんはお母さんはいないの?」


「ああ。親父もお袋も俺が物心つくまえに死んじまったらしい。強盗に襲われたって聞いたな…ま、それはどうでもいいんだ。なにも覚えてないからな…」


「あら、なんか悪いこと聞いちゃったね…」


「いいって!そのことは!そんで同情されるのが一番困るし…な」


アルバは笑顔でサーシャに答える。サーシャもその淀みない目をみて思わず微笑んだ。アルバは慌てて目を外すと、背中にさした剣のツカを触った。


「だからさぁ、もうこれ以上知り合いが酷い目にあわないように剣の修行をしてる!」


「あら、じゃ官兵になるの?」


サーシャは目を丸くしてアルバに質問した。この歳で命の駆け引きをする兵士になりたいなどというのは、この国では珍しいと思ったからだ。官兵は、この国では治安維持が最大の目的だが非常時には軍にもなる。


「まさか!この国の官兵は弱すぎる。俺は…エディアに行きたいんだ。」


「エディア?」


ますますサーシャは驚いた顔で彼を見つめた。

エディアは、このカーフィの東にある島国で謎多き国である。大国と呼ばれる5つの国で国土はもっとも小さいが、なぜか国は豊かと言われていて国民は他国の貴族なみの生活をしているという。

更に、その国土を守っている兵士は世界最強と言われていた。だが、それらはすべて推測だ。かの島の周りには強い海流が流れていてたどり着くのさえ不可能と言われている国だからだ。つまり噂話にすぎないのだ。だが、アルバは目を輝かせながら話をつづける。


「知っているか?エディアの兵士たちの最高位…ルーク。世界中の剣士の中から最強の者だけを集めて結成された最強の戦士たちだ。たった36人しかいない精鋭だ。俺は…そこに入りたいんだ。」


ルークの話は世界中の人が知っているが、その姿を見たものはいないと言われている。なので一説には、エディアが国を守るために流したデマというのが通説になっていた。


「そう…なんだね…。」


サーシャは、真剣な眼差しでアルバを見た。アルバは、今度は目をそらさず「ああ」と頷く。だが、サーシャは、言葉を続けようとする彼の口をそっと手で塞いだ。細い美しい指が突然唇にふれてアルバは焦ったが、サーシャは冷静に


「でも…私たち、すっかり囲まれている。さて、どうしましょうか?最強の兵士さん?」


と、いたずらっぽい顔でアルバに問いかけた。








































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