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「私はね、アルバ。子供の頃から駒遊びが好きだったの…。駒遊びってわかるかな?」
足を速めつつサーシャはそう話し出した。正門に近づくにつれ、人の気配はますます無くなっている。風の音とサーシャの声だけが辺りに響く。
「駒遊び…わかんねぇけど…」
「駒は全部で20個づつあって、ひとつひとつ役割が違うの。それを2人が使いキングという駒を取ったら勝ちみたいなものなんだけど…」
「ああ、戦争ゲームみたいなものか…」
「あは、ご名答!私はそのゲームで、5歳くらいの時には大人にも負けなかったわ。」
サーシャは、初めて自慢げに話し始めた。アルバの国にも似た様なものはあるが、どちらかというと子供の遊びの延長にあるゲームだ。彼は、そのゲームはからっきしダメだったが…。
「どんな優秀な駒でも戦い方でも、必ず弱点はある。私はね。相手が得意とする戦法を見抜き、その中で相手が最も重要とする駒を追い詰めるのが得意。つまり相手の泣き所を見つけて、精神的に追い詰めて勝つのが私の戦い方なの。」
「それって、性格悪くねぇか?」
アルバは顔を顰めてサーシャに問いかける。堂々と一騎打ちで勝ちたいと思う少年にはあまりうけない戦い方だった。段々と視界には、黒く広く大きな壁が見えて来ていた。そうやら正門まではもうすぐのようだ。
「どんなに相手が嫌がろうと、卑怯だといわれようとそれで大事な人たちが助かるなら、私は厭わないわ。あ、城壁が見えてきたね…」
「理屈はわかるけどよ。俺はそんな戦い方はできねぇ」
「あは。さっきしたじゃない?野盗相手で!」
「それは、サーシャが命令したからだろ!?ん?サーシャ、あんたはもしかして…軍略家みたいな類の人間なのか?」
アルバは、思いついたように彼女に問いかけた。軍略家の話は、よく聞くがそれは地位が高く直接戦闘に参加しない…アルバにすれば少し臆病者の輩という訳だ。つまり、他人に戦わせて自分は遠くのところで高みの見物をしている…という認識だ。なにも答えないサーシャにアルバはすこし呆れ気味に言葉を続ける。
「まぁ、サーシャは戦闘には向かないもんな。」
サーシャはその言葉とアルバの表情を見て、若干不機嫌になったのか無言をつらい抜いた。