7.ボカディーリョ売り、ミラの一味になる!?
「はい、これでおしまい」と、ミラは芦田の腕に貼った湿布を軽く叩いた。
「いてっ」芦田は、顔をしかめる。
芦田はどこか部屋の中にいて、怪我の手当てをしてもらっていた。連れて来られるまではあまり覚えていなかった。朦朧とする意識で、後部座席にうずくまっていたのだ。
「君は一体何者なんだ?」芦田は直球で尋ねた。
マルコとミラが一瞬顔を見合わせるが、ミラは芦田の方を向き、
「あなたを巻き込んだのは申し訳ないと思っている。けど、あと一日で全て終わることなの。しばらくおとなしくしてもらっていい?」と言った。
「巻き込んだって、計画的だろ?メモを残して、俺を西扇子島公園に誘った。そして...もしかすると、君は俺をおとりにあの男を殺そうとしたんじゃないのか?」芦田が言った。
ミラは黙っている。
「西扇子島公園に向かうとき、昼間のサッカー場に某国国賓が観覧するなか、発煙騒ぎがあったってラジオのニュースでやってたぞ。何事もなかったってことだけど、君はテロリストなのか?」芦田は続けた。
「違う」ミラが口を開く。
「あのボディーガードの男は、アランといいます。十数年前の紛争中、ひどいことをしました。私の家族、いえ、街の人間皆に対しおこなったことは、決して忘れられません。生き残った私は、復讐のため、語学、戦闘技術を学び、あらゆるネットワークを駆使して、当時のことを調べました。アランはそのときの指揮官だったのです」ミラは芦田の目を見て話した。
「私達の目的は、某国国賓ではありません。アランという男ただ一人です」ミラはそう話したあと、小さなため息をついた。
「それでも、君は、人殺しにはかわりないじゃないか」芦田が言った。
「違う!あの男と一緒にしないで」ミラが声を荒げる。
「そのアランを殺せば、君も同じだ...君を人殺しにしたくないんだ...」芦田が言う。
ミラは首を左右に振って、
「...アランへの復讐は、私の生きがいなの...」と言った。
「君は、未来に向かって生きるべきだ」芦田が言う。
ミラの後ろに立っていたマルコが芦田の前に立った。
「ミラ、チャンスは明日しかない。この男にかまっている暇はない。明日、我々の手伝いをするか、あと一日ここでおとなしくしてるか、それともここで死ぬか、彼に選んでもらおう」マルコはそう言って、銃を抜いた。
「マルコ、彼は関係がないわ。殺したら、アランと同じ...」ミラはマルコを見て首を振った。
「俺は、人殺しの手伝いはしたくないが、君たちの計画を聞こう。今日みたいに巻き込まれるのはもうごめんだ」芦田は明日ミラ達についていくことを決心した。
(ミラを人殺しにはしたくない...)芦田は奥歯を噛みしめた。
「ところで、あなたはミラのなんなの?」芦田はマルコに尋ねる。
「...私は、ミラの家に仕えていた元執事です」とマルコは言った。
(ふーん、いいことの家柄なのね...)芦田は思う。
「こんな部屋よく借りられたな」芦田が尋ねる。
「我々にも少しの協力者はいます。故郷では有力な家系でしたので。それに、我々は長い期間計画していたのです。日本を選んだのも、銃を使えないからです。この国で銃を持つことは非常に目立ちます。それは相手も同じ。アランが悠々と銃を使えない状況はチャンスなのです。我々はそのために格闘術なども身につけたのです」マルコが語った。
ミラがコーヒーを運びながら
「じゃあ、明日の計画の話をしましょう」と、言った。