5.ボカディーリョ売り、ひどい目にあう
「女はどこだ?」
アランは芦田の前に立つなり言った。
「知らない」芦田は答えた。
アランは辺りを見回す。それからもう一度芦田の目を見ると、
「お前、昼間スタジアムにいたな。女を知っているんだな?」と尋ねた。
「いや、俺も呼ばれて...」
芦田が言い終わらないうちに、アランの右のフックが芦田のあごに飛んできた。芦田が倒れる前にアランの左拳が肝臓を打ち抜く。
芦田はその場に倒れこんだ。
アランは倒れこんだ芦田の腹をつま先で数回蹴り込んだ。うめき声が芦田の口から漏れる。
更に顔面を数回踏みつけた後、アランはしゃがみ芦田の髪の毛を鷲掴みにすると、顔を上げさせ覗き込んだ。
「例のものは、どこだ?」アランが低い声で聞く。
芦田は震えていて、呻っている。返す言葉はない。
「女はどこだ!証拠はどこだ!」アランは叫んで芦田の顔に拳を振り下ろす。
芦田はただ呻くだけだ。
「おい!取引しに俺を呼んだんだろうが!答えろ!」アランは立ち上がって、芦田の体中を蹴り上げる。
芦田はもう考えることも出来ない。ただこの時が過ぎるのを待つだけだった。
アランは一息ついて、辺りを見回した。
「くそっ。フェイクか?」アランは呟いた。
それからアランは芦田のポケットを探りサイフの中や、鍵を調べた。何も有意義なものが無いとわかると唾を吐いた。
「無駄足だったな...」アランは立ち去ろうとした。
芦田は震えながら、少し顔を起こした。
(...やっと、終わった...)
立ち去ろうとするアランを震えながら見ていると、突然アランが走って引き返してきた。手にはサイレンサー付の銃を持っている。
「女は!証拠は!」アランは銃を芦田の眉間に突き付け叫ぶ。
「これが最後だ!」更に強く突き付ける。
芦田は震えながら、呻くだけだ。
「...だめか。やはりこいつは何も知らんな...素人だ」アランは銃をしまうと、車へと戻っていった。
(この国で銃は使えない。無駄な殺しは避けるべきだ。明日でボディーガードの仕事は終わりだ。この件は国に帰ってからじっくりとかたをつけてやる)アランはそう思いながら車へと進んでいった。
芦田は震え、呻きながら、うずくまり、霞む目でアランを追った。