4.ボカディーリョ売り、ミラに会いに行く
「はぁ...」
夕方、芦田は商店街の小さな公園の脇にワーゲンバスを止め、車の中のカウンターに肘をついてため息をついた。
高校生の裕太と舞がそれを聞いて顔を見合わせる。
「どうしたの?元気ないじゃん」裕太が芦田に声をかけた。
「ああ。元気ないのわかる?」と芦田。
(っていうか、聞いて欲しいオーラがすごいじゃん...)裕太は思った。
「今日さ、スゲー美人にあったんだよ。それがさ、日本人じゃないんだけどさ、日本語もうまくてさ、少しだけドライブしたんだけど、どっかに行っちゃった...」
「連絡先とか聞かなかったの?」と舞が尋ねる。
「聞いてたらこんなにへこんでないよ...」芦田が返す。
「はぁ...」とまた芦田がため息をついた。
「重症だな、これは...」裕太が舞に耳打ちする。
「そうね...」舞がうなずく。
「この助手席に彼女が座ったわけか」舞は助手席の方へ行き、ドアを開ける。
「もう少し、掃除したほうがいいんじゃない?」舞があまりきれいとはいえない助手席を見て言う。
「これ、なんだ?」裕太が何かに気づいた。
フロントガラスのワイパーに紙が挟まっていたのだった。裕太はそれを取り、見てみると、
「なんか書いてある。『西扇子島公園 AM2:00』だって」と言って、芦田に渡した。
芦田はそれを受け取り、メモを確認すると、
「間違いない、彼女だ...」と呟いた。
「え?そうとは限らないんじゃ...」と舞が言う。
「今日の朝まで、こんなのなかったし!」と芦田は力強く言う。
「でかしたぞ!きみたち!」芦田は裕太と舞に笑顔をみせた。
「でも、なんか怪しいな」と裕太。
「そうよね、こんなことに挟んで、気づかなかったらどうするのよ」と舞。
しかし、芦田は気にかけない様子だ。
「やっぱ、照れるんだろうな、どうしても。もしかして、日本語の告白の仕方がわからないんじゃ?」と芦田は聞く耳を持たない。
「行くの?」舞が尋ねる。
「もちろん、行くに決まってるだろ」と芦田。
「気をつけたほうがいいよ。夜中に会おうなんて、怪しすぎないか?」と裕太が心配する。
「...」芦田は少し考えたが、「まぁ、行って見ればわかるさ」と言った。
夜、AM2:00には少し早かったが、芦田は西扇子島公園に向かった。西扇子島公園は埋め立て島の中にあり、海に面しているところは1m30cm程の柵が続いていた。休日の昼間には釣り人も並ぶようなところだが、夜になると、周りは倉庫街のため人はいなかった。
芦田は駐車場に着くと、車を置き、海に面した公園に向かった。
入り口近くには公衆便所があり、明かりがついている。芦田は一応トイレに寄った。
トイレを出て、海に面した舗装された道を歩く。数十m間隔で外灯があり、割と辺りを見渡せるが人の気配は無い。
公園の真ん中辺りの外灯近くのベンチに芦田は座った。
(本当にミラはくるのかな?)芦田は半信半疑で時を待った。
時計の針はAM2:00を指した。
駐車場の方から車の音が聞こえた。芦田は顔を上げる。同時に芦田の鼓動速くなった。
芦田がベンチに座りながら公園の入り口を見ていると一人歩いてくる人が見えた。
(ん?)芦田が目を凝らす。
「ミラじゃないな...」
近づいてきたのは、スーツを着たアランだった。
(あの外国人見たことあるな...)芦田は昼間のサッカー場での出来事を思い出していた。
アランは一直線に芦田の元へ足を進める。その歩みには迷いが無い。
芦田の頭に不安がよぎった。