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ホムレン1-4

 主税が作業を始めて2時間と少し、夕方の4時頃になってようやく草刈も一区切りついた。


 刈った草はこのまま乾かしておいて明日にでも纏めれば良いかと自分で区切りをつけたのだ。


 畑仕事は草刈にしても、仕立てにしてもやり始めたらきりが無い。本職さんから見たら手抜きと言われても仕方ないことなのだが、趣味の延長でしかない主税の畑は無理せず楽しくがモットーなのである。だから自分が今日は此処までと思えばその日の作業は終了なのであった。


 6月の4時頃と言えばまだまだ日は高く、作業するのには問題ない時間ではあったが、主税が早目に作業を切り上げたのには理由がある。


 実はこの家、借りたと言っても電気とガスの契約はしていないのである。料理と水遣りの関係で水道だけは引いているが、それ以外は必要ないかと割り切ったのである。週に一泊しかしないのに基本料金を払うのももったいないと考えるのは、倹約根性の染み付いた愛知県民ならではなのかも知れない。


 そのような事情から、借りた家は夜にもなると真っ暗なのである。


 できることなら、日が落ちきる前に食事の支度とシャワーくらいはおわらせたいし、なにより今日中に爺さんのところには顔を出そうと考えたらこの時間になってしまうのだ。


 主税は草刈機を空ぶかしして、最後に少しだけ残った燃料をからにすると、納屋へとしまい、軽ワゴンに乗って爺さんの家へと向かう。


 近所と言うことも有って、一分ほどで爺さんの家に着いた。


「こんちはー、西野間ですけどー」


「はーい、ちょっと待ってくださいねー」

 

 勝手知ったる他人の家と言わんばかりに主税は敷地に入り中に声を掛ける。すると中から年嵩の女性の声が返ってくる。


(お婆ちゃんしかいないのかな?)


 暫くして玄関の網戸越しにお婆ちゃんがやってくる。


「あぁ、西野間さん。お爺ちゃんなら田んぼだけど、もうじき帰って来るからお茶でも飲んでまってます?」


「じゃぁ、遠慮なく」


 小柄で少し腰の曲がったお婆ちゃんに人好そうな笑顔でそう言われると、主税は軽く手を挙げて応えながら、庭先の方へと歩き出す。


 流石にさっきまで草刈をしていて、いくら払ったとはいっても草と土埃にまみれた姿で上がりこむわけに行かないので、庭先の縁側にでも座って待たせてもらうのだ。


 馴れたもので、お婆ちゃんも玄関のタタキに降りる事無く、さっさと奥へと引っ込んでいく、おそらく台所から冷えた麦茶でも持ってきてくれる気だろう。


 主税が縁側に腰を下ろして暫くもしないうちに、お婆ちゃんが大振りのコップにカランと涼しげな音を立てながら氷の入った麦茶を持ってきてくれた。


 お礼を言いながら遠慮なく一気に半分ほど飲むと、主税の身体からどっと長谷が噴出してくる。水分はこまめに補給していたが、これからの時期飲めば飲むほど汗が噴出してくるのが、夏場の肉体労働者の性である。むしろそうならなければ身体に熱が篭ってしまいかえって体調を崩しやすくなる。


「そうそうこれなんだけど…」


 主税にお茶を渡した後、一度奥に引っ込んだお婆ちゃんが便箋ノート手に戻ってくると、表紙をまくって渡してくる。


「西野間さんの参考になればと思って、書いて見たんだけど、どうかしら?」

 

 便箋の中には、この間教えてもらった自家製味噌の作り方のレシピが書かれていた。材料の配合から、仕込みの仕方、夏場冬場の保管の方法など、便箋3枚に渡って事細かに書き付けてある。


「有難うお婆ちゃん。助かります」


 この前味噌は自家製で賄っている爺さんから聞いた主税が、お婆ちゃんに頼んで作り方を教えてもらったのだが、実地で仕込んだ味噌を持ち帰った後「この後どうすれば?」と、不安に思った主税を見かねて書いてくれたのだろう。むしろ、この後の事を何も聞かず、ニコニコしながら仕込みを終えた味噌甕を車に積み込んだのを見ていたお婆ちゃんの方が不安だったのかも知れないが。ちなみに味噌の材料を揃えてくれたのも爺さんとお婆ちゃんで、主税は材料費を払っただけだったりもする。


 それから少しの間味噌の事や、畑の事で二人で話していると、軽トラがやってきて爺さんが降りてきた。


「おぉ、きとったか。丁度良い、今から行こうかと思っとった」


 それにしても、どおしてお婆ちゃんは爺さんが帰ってくるのが分かるのだろうか? 前に尋ねたときは確か戻ってくるまで時間が掛かるから、田んぼの方へ行ったほうが早いと進められたことがあり、それで田んぼに行ってみるとお婆ちゃんの言うとおり、作業に時間が掛かりそうで、主税は手伝いを申し出た事もあった。


(これが長年連れ添った夫婦ってやつなのかな? 俺にはよく分からん)


 実際、行動力とバイタリティに溢れた爺さんに、すこしほんわかとして居そうに見えて、味噌のメモのように気配りの行き届いたお婆ちゃん。お互いの凸凹を埋めるような老夫婦の関係に少し羨ましくも思う主税であった。

  

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