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ホムレン11 2-3 アルガー3

「そう、此処は『錬金術師の箱庭アルケミスト・ガーデン』と、呼ばれる、所謂いわゆる亜空迷宮ダンジョンだよ。そして僕は、迷宮主ダンジョンマスターと言うわけだね」


(ダンジョンに、ダンジョンマスター。これが大掛かりなドッキリとかじゃなければ、異世界…。まさかな)


 畑の無い平日は、仕事が終わった後はネットや、二次元依存の生活を送っている主税である。そしてファンタジーや、異世界物は大好物でもあった。だが、可能性や、発想としては異世界転生は有るものの、それが現実に起こりうるとは認めがたい程度には歳を重ねても居る。


「そして、君には伝えなければならない事がある」


 主税が押し黙ったままで居るのを横目に、ディビィートはさらに話を続ける。そこには言葉通り相手の心情をおもんぱかりながらも、絶対に伝えなければならない意志の様な物が窺われる。まるで出生の秘密を打ち明ける養い親の様な雰囲気に主税は思わずゴクリと喉を鳴らした。


「君は一度死んでいる。僕達が君の元にたどり着いたときはもう手遅れの状態だったんだ」


「死んでるって、俺は現にこうして……」


 そう言いながら自分の胸に手を当てる主税。しかし、主税の思いに反して手から返ってきた感触は自分の慣れしたんだ贅肉のつき始めた柔らかい中年男の胸板の感触ではなかった。、代わりにてのひらを当てた場所からは、少年期特有の薄くはあるがしなやかで引き締まった体つきが窺える。


 それでも、胸元には手を当てている感触が伝わってくるし、掌にも自分身体を触っている感覚がある。


 そして、自分の身体から離した掌を見つめる……。


 そこにあるのは、さっきも見た白く綺麗な手。


「理解してくれたかな? 今の君の身体は、僕が作り出した人造人間ホムンクルスだ。死んで間もない君の魂をその身体に移し変えたのさ」


「そんな事が、できるのか?」


「僕以外ではまず無理だと思うよ」


 それが本当の事なら、凄い技術だ。少なくとも主税の常識では魂の存在すら確認されていないのだから、それを移し変えると簡単に言い切るだけでも、理解の範疇から大幅に越えている。もちろん本当の話ならだが。


「なぁ、鏡を見せてくれないか? 今、俺の身体はどうなっているのか知りたい」


「分かった。用意させるよ」


 そう言うディビィートが扉の傍に控えたままのクヒカに目だけで合図を送ると、彼女は静かに部屋から出て行った。


「じゃぁ、鏡が来るまでの間に、ホムンクルスの身体について簡単に説明しようか」


「あ、あぁ、頼む」


 外見なら、いつでも確認できる。しかし、中身となるそうはいかない。未だに心のどこかで信じがたい気持ちもあるが、説明して貰えるのなら、聞いておくべくべきだ。なにせ自分の身体の事なのだから。


「まずは、魔石の吸収から」


「魔石?」


「そう、魔石。もしかして、知らないのかな?」


「知らないと言うか、何と言うか……そこから説明してもらっていいかな?」


 主税としては、『魔石』なんて言うテンプレアイテムが出てきた時点で吃驚であるのだが、それが主税の知ってる『魔石』だとは言い切れないので何とも言えないのだ。


「と、すると、瘴気も分からない?」


「何となくは分かってると思うけど、違ったら困るから、説明して欲しい」


 『魔石』に続いて『瘴気』。大体想像はつく。でも、全く分からないと言ってしまうと、ディビィートに馬鹿にされそうで、大人としては少しだけ見栄を張りたい主税であった。何処まで行っても、見栄は見栄でしかないのだが。


「うーん、そうだねぇ」


 どう説明しようかと、口元に人差し指をあて、首を少しだけかしげ、かわいらしい仕草で悩むそぶりをするディビィート。狙ってやっていたら、かなりあざといのだが、それでもその姿がとても似合っているのだから、子供とはいえ美形はずるい物が有る。


「そもそも、瘴気が何なのかと言われれば、僕でも解らない。長年研究を続けてきたとは言え、全ての謎が解けているわけではないからね。だから、これから話すのは『そういう物だ』と、理解してくれればいい……」


 そう前置きをしてから、ディビィートは瘴気と魔石について話し始めた。


 瘴気とは、大地から噴出すエネルギーの様な物らしい。少量であれば、動物や人体にはさほど影響も無いが、濃い瘴気を浴びてしまうと最悪死に至るか、魔物モンスター化してしまうとの事だ。そして、魔物化する時に体内に魔石が作られるらしい。


 主税の死因もこの瘴気を取り込んだことが原因らしい。ディビィートの話では、体内に魔石が出来かけていたとのことだ。


 ちなみに魂の抜かれた主税の死体は、瘴気と魔石を除去して、状態保存の魔法をかけて保管してくれている。


 また瘴気は、動物や人体に取り込まれなくても、濃く固まる事で魔物モンスターを持つ生み出す事もある。こうして生まれた魔物達は生物としてそのまま定着し、子孫を残す事も可能になるという。 


 ディビィートに言わせると、


「瘴気が魔物を経て魔石になることで、魔力に還元、もしくは消費されることで、バランスを取っているのだろう」


とのことだ。


 瘴気の吹き出し口の周りでは、まず弱い魔物が生まれ、それが飽和状態になると段々と大きな魔石を持った強い魔物が生まれてくるらしい。さらに末期になると『魔王』か、魔石の形のままのままダンジョンコアが生まれる。


 魔王が生まれたときは、これまで生まれた魔物達を引き連れ、別の地へと離れて行き、ダンジョンコアが生まれたときは、周辺を亜空迷宮ダンジョンへと変質させる。


「良く出来ていると思わないかい? 魔王が生まれれば移動して瘴気の飽和状態を緩和させ、ダンジョンと成ったら、コアが瘴気を吸収し魔力に還元する。 そして離れていった魔王は、他の地域の獣や人間、果ては別の瘴気が作り出した魔物と戦い、消費されていく。 ダンジョンコアにいたっても、瘴気から還元された魔力を使って、迷宮を作っていくんだ、より広く、より深くね、そして広く深くなった分余剰の空間が出来、新たに魔物が魔物が生み出されるスペースが取れる。さらに、ダンジョンそのものは、亜空に作られる為、実際の地上にはさほどの影響は無い。 まぁ、たまにダンジョンから魔物が群れを成して飛び出すくらいかな?」


「もちろん、瘴気の噴出し口付近でも、生まれた魔物同士は殺しあうし、年数が経てば少数の氏族が移動していく場合もある。少量しか瘴気を出さない所では、それだけで飽和状態が避けられたりするしね。 魔王が生まれるのは、あくまで瘴気の量が多く、生み出された魔物が年数を経て、一族を形成しつつ数を増やし飽和状態に成りながらも、その地を離れなかったりした場合かな。 ダンジョンの場合は、一匹が強大な魔物に育ってしまい、単体で飽和状態を招いてしまった事が原因で起こるようだね。ダンジョンでボスと呼ばれる存在は、この時取り込まれた強大な魔物の事だね。だから、ボスを殺してもダンジョンが消滅するわけじゃない。精々、数百年単位で魔物がダンジョンから出てこなくなる位かな」


 ディビィートは説明をしながら、主税が疑問に思ったことを質問すると、そのつど楽しそうに、自分の知っている範囲内分かりやすく、で応えてくれる。


 検証不足で確信に至っていないときは、きちんとそう前置きしてから話す姿勢は、先程小さな見栄を張ってしまった主税と違い、研究者として真実を伝えようとする真摯さがあり、とても好感の持てるものだった。


 質問のなかで、瘴気の噴出そのものを何とかできないかと聴いてみたが、ディビィートをもってしても、全てを止めることは出来ないらしい。


 ただし、ダンジョンコアがてに入るのなら、それに術式を書き込み、制御する事で影響を少なくする事は可能のようだ。この古代錬金術師の箱庭アルケミスト・ガーデンのように。


 つまり、ディビィートは、ボスを倒し、ダンジョンごと乗っ取ったと言う事らしい。






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