第四章⑪
エレクトリック・チャージャ。
魔女にエネルギアを充電されたのだ、とハルカはスズメに言った。「彼女は充電器、スズメを助けたみたいに、口移しでエネルギアを他人に与える魔法を使うの」
「は?」ハルカが自分を騙そうとしているんだってスズメは思った。「充電器? 魔法? 得意のハルちゃんジョークにしては切れ味がないけど」
「ジョークじゃないわ、私は本当のことを言っているだけなんだけどな、スズメが一番分かると思うんだけど、なんていうか、すっごく力が満ち溢れているのが分からない? グラスからこぼれ落ちそうになっているサイダの泡を感じない?」
「サイダって、何の話をしてるのよ」
「メタファだよ、」ハルカはペロッと舌を出して微笑んだ。「とにかく感じるものがあるでしょ?」
「うん、確かに、感じるよ、感じるけどさ、」スズメは頷き、ハルカに吸い寄せられるように二歩近づき優しい声で言う。「でも、信じられないよ、私、そんなことを言うハルカが心配だな」
「スズメは優しいね、とにかくマナミちゃん、安心して、」ハルカは抱きついたままのマナミの頭を撫でて言う。「人工呼吸みたいなものだから、浮気じゃないから、ほら、私じゃなくてスズメを抱き締めなさいな」
「う、浮気って、」スズメはちょっと慌てる。「べ、別に私とマナミは、その、付き合ってるとか、そういうんじゃないし」
マナミはハルカを抱き締めたまま、振り返りスズメを一度睨んだ。そしてハルカに耳打ちする。ハルカは首を竦め、通訳してくれた。「付き合ってくれたら許してあげるってさ」
「はあ?」スズメはマナミの背中を睨んだ。「いきなり、そんな、そんなこと言われても、っていうか、付き合ってもいないのに、許すも許さないもないじゃん」
それにここには。
ハルカがいるんだし。
好きな娘が二人。
そう、スズメはハルカのことも、どうやら、ずっと好きだったんだ。
マナミがそんなこと言ったって、正直に言えるわけないじゃんか。
すぐに判断できるわけないじゃんか。
マナミがこっちを見ている。
返事を待っている。
ハルカもこっちを見ている。
返事を待っている。
スズメは苦悩した。
選べるわけないよ。
いつだったか、マナミが言っていたっけ。『スズメちゃんは絶対、拒絶しないって分かるから、だから言わないでいてあげてるんだよ、私は今以上になりたいけど、スズメちゃんは今以上になったら困っちゃうから、もう少し時間が必要なんだと思ってさ、今はキスと、優しい刺激で我慢してあげてるんだからね』
本当に、その通りになった。
エネルギア満タン。
しかし行き場を選べなくて、滞る。
バチって。
紫色の火花を上げて。
スズメはショートしそう。
「ごめんね、スズメちゃん、」ハルカから離れたマナミが、ちょっと悲しげな目をして言う。「困らせちゃって、ごめんね、ただ、その、んふふ、」マナミは笑ってスズメの髪の毛の中に手を入れる。「意地悪したかっただけなのぉ」
「……は、はあ!?」スズメはヒステリックに声を荒げた。「なんなのよっ、なんなのよっ、もうっ」
「あははっ」マナミは愉快そうに微笑む。
「スズメ、」ハルカは両耳を手の平で押さえ片目を閉じて言う。「うるさい」
「ごめん、」スズメは声のボリュームを下げずに言った。「でも、エネルギアが満タンだから、うるさくなっちゃうのも仕方ないよね」
ハルカは安心した表情を見せて言った。「じゃあ、スズメ、マナミちゃん、頑張ってね、ライブ」
黒猫と、そういえばさっきからずっと通路の脇にいた男子二人をハルカは後ろに連れて、二人の前から去って行く。
一体、どうしてこんなところにハルカはいたんだろう?
なにをしている途中だったんだろう?
そんなことより、気のせいかな。
ハルカの髪の毛が黄昏の薄明かりのように煌めいて見えたのは。
「スズメちゃん、行こう、」マナミがスズメの手を掴んで引っ張る。「フェスティバルが始まっちゃうよっ」
「う、うん」スズメは頷きながら、そういえばハルカに聞きそびれたって思った。
私にキスしてくれた綺麗な人は、一体誰なんだろう?
その人のこともスズメは気になっている。




