<70.5> 幕間
──コツン。
本当にわずかな音に気がついて、ナナエは目を開けた。
外はうっすらと白み始め、朝が迫っているのが分かった。
ナナエの隣にはリーセッテが未だ安らかな寝息を立てている。
寝台近くの長いすで寝るというのを無理やり寝台に上げたのだ。
そんなリッセを起こさないよう、ナナエは慎重にバルコニーに近寄った。
「今日、です」
バルコニーの影から囁くほどの微かな声でそう告げられ、ナナエは小さく頷いた。
ナナエにも今日がその時だと薄々感づいていた。
だからこそルーデンスにあんな勝負を吹っかけたのだ。
「一緒に、帰りましょう」
僅かに温かさの篭った声に思わず笑みがこぼれる。
ナナエが再び小さく頷くと、それを確認したかのようにバルコニーの影から気配が消える。
そのことを少し寂しく思いながらも、今日でこの気持ちもお終いだと感じると嬉しさがこみ上げる。
何度も何度も挫けそうになったけれど。
あの日、商店街でトゥーヤに会えた。
みんなの存在を感じられた。
それだけで、凄く勇気付けられた。
ともすれば後ろ向きになりがちな気持ちを、前に向わせ続けることが出来た。
結局のところ。
ナナエは思った以上に皆が好きだと言うことに気付いた。
いつも側に居てくれるマリーやトゥーヤ。
お兄さんみたいなカイトとリフィン。
自分勝手だけど結構優しいセレン。
そんな皆に早く会いたかった。
思い返してみれば。
寂しくて不安になることもあったけれど、ルーデンスにしてもナテルにしても。
この国の人に本当に悪い人はいなかったように思う。
ナテルはいつも側で元気付けてくれたし、ルーデンスも”ナナエの気持ちは関係ない”などと言いつつも、いつも最後にはナナエの気持ちを尊重してくれた。
だからと言って、この国に残るつもりはないけれど、あの2人やリッセ、少ししか話はできなかったけれどディレックやゲイン。
みんなナナエに優しかった。
きっと後から振り返ったら”面白かったな~!”って感想になっちゃうかもしれない。
ルーデンスもナテルも、違う形で会っていたらきっといい友達になれた気がする。
オラグーンやエーゼルとか関係なしに出逢えていたら。
そう、ちょっとだけ残念に思う。
でも、今日はもう始まってしまった。
あとは進むだけなのだ。




