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<64> 諦めたらそこで試合終了ですよ…?

昼ごはんの後の庭園の散策はナナエの日課だ。

特に最近はナテルによるお菓子の絨毯爆撃の為に消費カロリーを増やすことを忘れてはならないのだ。

つま先をあげるようにして、少しだけ大股、早歩きで庭園を30分は最低でも歩く。

歩く。

歩く。

そして周りに人が居ないことを確認して、おもむろにスクワット20回。

歩く、歩く、歩く。

周りに人が居ないことを確認して、おもむろにスクワット20回。

偉い人も言っていたではないか。


「あきらめないで!」


ナナエはノリノリで宝塚ばりにババっと両手を広げてポーズをとりながらターンした。

スポットライトを浴びた女優のごとく、満面の笑みで!

そう、その振り返った先には!


「……………」

「なにも~あきらめてませんけども~」


人が居た。

ナナエがこの城で見たことが無い人だった。

立派な衣装を身にまとった若い男性だ。


「う」

「う?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ナナエは顔を赤くして両手で頭を抱え仰け反った。

(……恥ずかしい、恥ずかしすぎる!)

その男性はポカンとした顔で呆然と立ち尽くしている。

あたりまえだ。

目の前の見ず知らずの女がスクワットをしたかと思ったら突然振り返って、両手を広げて「あきらめないで!」とかやったら普通はドン引きだ。


「な、ナナエ様~~?」


ナナエの女らしくないわめき声が聞こえたのか、ナテルが慌てて小走りでやってくる。

この時間はいつもナテルにはちょっと離れた場所に待機してもらっていた。

スクワットしてるところなんて女性として他の人に見せたくないというナナエなりの乙女心なのだ。

そして、ナテルはその男性を見て明らさまに表情を曇らせ、足を速めた。


「これは…大公様。なぜこのような場所に」


一礼をしてナテルは男性からナナエを隠すようにして、その男性とナナエの間に立つ。

どうみても会ってはならない人といった様子だ。

ナナエは状況を飲み込めずにそのままナテルの背後に隠れた。


「いや~散歩をしてましたら迷ってしまいましてねぇ」

「それはまぁ、随分と盛大な迷子ですね。大公様のお部屋からここまではかなり無理しないといらっしゃれないと思うのですが」

「あ~そうなんですか~?」


ゆったりと間延びした口調で話す大公と呼ばれた男性とは打って変わって、ナテルは酷く緊張した顔をしている。

ナテルらしくない棘のこもった言葉も、とても不安に感じてナナエはナテルの後ろに隠れたままシャツの背中をぎゅっと握った。

この目の前の一見無害そうな男は誰なのだろうか。


「お部屋まで案内させましょう」


硬い声でそういい、ナテルは近くに居る兵を呼び止める。

それを見て、大公は少し首をかしげて口元を緩めて見せた。


「そちらのご婦人は~どなた、なんでしょうねぇ~?執務補佐官殿ともあろう方が、血相を変えていらっしゃるとは、ね」


ナテルの背中越しにその表情を見たナナエはその目が笑っていないことに気づき、少し身を震わせた。

大公の目はまるでナテルの背中の向こう側、ナナエを品定めするかのように目を細め、じっくりと見ている。


「ルーデンス様の遠縁に当たる方です。…ご無礼を承知で申し上げますが、今すぐお部屋にお戻りください」


ナテルは右腕を伸ばして兵の方へと大公を促す。

それを大公はほんの一瞬だけ顎を上げ鼻で笑ったように感じた。

ほんの一瞬のことだったので、それを気づいたのは恐らくナナエだけだろう。

すぐに大公は穏やかに微笑み、背を向ける。

そして数歩兵士に歩み寄ったところで足を止め、上半身を少しひねって振り返った。


「また、晩餐でお会いしましょう。ナナエ様、でしたっけ?」


穏やかな口調が大公の心中とは全く別のものであると感じ、とても不気味で、ナナエはナテルのシャツを握ったままその背中に隠れるように額を押し当てた。

大公の”ナナエ様、でしたっけ”という言葉がとても空々しく聞こえる。

何かを知っていて、ああやって意味深な口調なのだろうが、ナナエにとってはただの初対面の胡散臭い男だった。

日ごろから傍にいるナテルの方に信頼を置いても無理は無い。

そうして大公と呼ばれた男は再び背を向けて立ち去っていった。






大公が立ち去った後もまだ少し不安そうにして、ナナエは立ち去った方向をナテルの背中から覗いていた。

ナテルからすれば自分が少し離れている隙にナナエが連れ去られていてもおかしくない状況だったのだ。

ナテルはやっと緊張が解けたように、困ったような顔をして、肩越しからナナエを振り返り見た。


「ナナエ様?ええっと…」


ナテルは何から話していいか困ったように口ごもる。

そんな彼の表情を全く気にもせず、ナナエは大公の去った方向を未だに警戒している。

そのナナエの態度にナテルはいささか困惑していた。

(ナナエ様の演技なのか、それとも関係の無い人物なのか…)

それを見極めようとナテルは考える。

もし、ナナエが大公と顔見知りであれば、大げさに声を上げたりしないのではないだろうかと言う考えもあったが、そこまでもが演技に入っているのだとしたら見極めなければならなかった。


「…なにか、ありましたか?」


慎重に言葉を選びながらと言った感じでナテルはナナエを見る。

そんなナテルを見てやっと安心したかのように、体を離し少し距離を開けた。


「見られた…」

「はい?」


ナナエは悔しげにそう言って地団太を踏む。


「こうやって!スクワットして!」


ナナエはナテルの目の前で突然スクワットを始める。

そして宝塚ばりに両手を広げてくるっとターン!(※再現中)


「あきらめないで!」


なにかやり遂げた感いっぱいの笑顔を浮かべつつ、ポーズを決めたままの姿勢でナナエはナテルを見た。

どんなリアクションを取ればいいのか分からない。

ナテルは色んな意味で居た堪れない。


「これ、見られた…誰にも見られたくなかったのに…」


そう言って、今度は悲壮な顔でぺたりと芝生の上に座り込み、胸の前でこぶしを握り、肩を落として俯いてみせた。

そして何故か”よよよ…”とか言って、顔に手まで当てている。

ナテルは反応に困って頭を掻いた。


「はぁ…誰にも、ですか。俺、見ちゃいましたけど」


ナテルがそう言うと、ナナエは一瞬固まって


「ノォォォォォォォォォォ!!!!」


とか言いながら頭を抱えて仰け反ったり体を丸めたりしながら左右に転がった。

全く何がしたいのか分からない。

コレも含めて全て演技なのか?

にしては相当…アレな感じだ。


「まぁまぁ、落ち着いて」


ナテルが声をかけるとナナエは微妙に涙目で何故か視線を斜め下に落として薄く笑った。


「人生最大の汚点だわ…」

「いや、まぁ。ナナエ様の奇行は今に始まったことじゃないですし」

「それ、フォローになってない」


ナナエは深くため息をつくと、ドレスに付いた芝生の破片を軽く手で払う。

いい年した女性が、芝生の上で転がったりする方がよっぽどおかしいと思うのだが、それを指摘したらまたアリエナイ薬剤を飲まされるのかと思うと突っ込めない。


「なんであんなとこに人がいるのよ…私がここにいるときは誰も近づけないでって言ったのに…」

「いや、あ…すみません」


それはナテルにも不思議だった。

ここはルーデンスの居室があるエリアで、そこは警護の理由もあり、ほかの客人の居室からは簡単には来れないようになっている。

しかも、この庭園は入り口がひとつしかない。

その入り口にはナテルが居たのだから、本来ならナテルに気づかれずに庭園に入り込むことなどは不可能なのだ。

となると、わざわざナテルを避けるために転移の魔法を使ったということになる。

何のためか。

やはりナナエが目的なのであろうか?

それとも、ルーデンス自身なのだろうか。

ナナエが目的だとしたら、様子が幾分おかしい。

先ほども本気で大公を怖がっているように見えた。


「…なんかあの人、怖かったね」


ボソリとナナエが言う。

その言葉に嘘を感じられなくて、ナテルはほっと胸をなでおろす。

やはり怖がっていると思った自分の感覚は間違いではなかったと確信する。


「そうですか?」

「目が笑って無かったよ」

「ああ、そう言う事もあるかもしれませんね」

「偉い人?」

「そうですね。この時期は諸外国からも収穫祭を見にいらしたりするので」

「そっか」


怖いというだけで、ナナエはその人物に対してそれほど興味もなさそうだった。

それよりも先刻のパフォーマンスを見られたことにショックを感じているようだった。

あの男性こそがオラグーンの王弟殿下であるパーリム大公であると、告げた方が良かったのだろうかと思案する。

告げればナナエは大公と連絡を取りたがるだろうか?

とりあえず、ルーデンスにことの次第を報告せねばならないとナテルは眉間にしわを寄せた。


「あんなの見られたら…お嫁にいけない…」

「あはは、大げさな」


もうナテルにも見られている。という事実をまた忘れている。

いまさら何人増えたところで変わらないだろうとナテルは思う。

しかし、ナナエはショックだった様だ。

相変わらず肩を落としたままである。


「晩餐にって言われたけど、行かなきゃ行けないの?」

「いや、まぁ…顔を合わせてしまってますし。強く望まれたら断れませんねぇ」

「うううぅぅぅ…ご飯の時間は楽しみの時間なのに…なんで胃の痛い思いをしなきゃなんないのよ…」

「まぁ、顔を合わせないでいいようにルーデンス様と話をつめてみますけど…」

「どうすればいいのよ…」


再びがっくりとうなだれる。


「いやまぁ、とりあえず、ですね」

「うん」

「あきらめなければいいんじゃないですか?」


ナテルがナナエの言葉を引用して、人差し指を立てながら勤めて明るく言ってみた。

コレでナナエがショックから立ち直れば、と心からの善意である。

しかし、ナナエは一瞬表情をなくした後、少し俯いてフルフルと体を震わせた。


「どうかしま…っぐはっっ!!」


ナナエのチョップがナテルの眉間に炸裂した。


「それを思い出したくないんだってば!!!!!!」


ナテルは今日も元気に地雷を踏んだようだった。

すみません、寝ぼけながら書いた酷い文章だったので少し改稿しました。

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