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<41> テクニシャン育成計画。

思わず指差した。

ただそれだけだった。

だが、迂闊だったのはその手にフォークが握られたままだったことだ。

そして、そのフォークにはたまたまピーマンが刺さっていた。

全く意図した行動ではなかったのだ。

ただ名前を聞きたかっただけなのである。


一瞬、葱男はきょとんとした素の状態になった。

その表情にちょっぴり胸キュンしたとかしないとかそんなのはどうでも良くて。

葱男はすぐ相好を崩し、そして爆笑したのだ。


「あの、名前…聞いてなかったので」


流石に恥ずかしい程の行儀の悪さだと気がついて、ナナエは幾分顔を赤くしながらその突き出したフォークを引き戻そうとした。

が、それは直ぐに葱男に手首をつかまれ、静止する。

葱男は「いや、失礼しました」と笑顔のままそう言い、ナナエの手を引き寄せた。


「私はルーデンス。ルディと呼んでください、愛しい人」


そう言って、そのフォークの先を己の口に入れる。

驚きの余り硬直していたナナエが我に返ると、フォークの先にあったピーマンは無くなっていた。

掴まれた手首は緩められ、ルーデンスは親指の腹でナナエの手をそっと撫でる様にして、その感触を楽しんでいる。

それをナナエはなんて言っていいか分からないといった感じで、微妙な表情を返していた。

ゲームの中でなら床ローリングで済むようなシチュエーションも台詞も、なんともいたたまれず…。

(…尻がむず痒い)

思わず苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

安心して浸れる、という部分ではゲームって秀逸なんだなと感心する。


「普通の姫なら頬を赤らめるところなんですが」


”そんなことは望んでいない”とありありと分かる表情で、ルーデンスは笑う。


「そんな嫌そうな顔をされると、男としては燃えますね」

「萎える、の間違いじゃないでしょうか?」

「いえいえ。新鮮で面白いですよ」

「楽しませてやってるわけではないですが」

「でしょうね」


ルーデンスは終始にこやかで、昨夜の言葉の数々や行動が夢ではなかったのかと疑りたくなる。

(それでも…)

ナナエは左手でそっと首輪を触った。

アレが現実であったことは間違いでは無いと、コレが教えてくれている。


「そういえば」

「はい?」


そんなナナエの思考を遮るように、ルーデンスが口を開いた。

未だに手首は握られたままの状態で。


「ピーマンはお嫌いではないんですか?」

「大好きですけど?」

「それでは」


ルーデンスはおもむろに自分の皿のピーマーンをほお張った。

そして少し腰を浮かし、摑んだままのナナエの手首をグッと引き寄せる。

ナナエはとっさのことに反応しきれず、テーブルに突っ伏さないよう反射的に左手をテーブルについた。

そのタイミングで、である。


「ちょ…やめっ…」


ルーデンスが己の唇でナナエの唇を塞ぐ。

頭を反らして抵抗しようとするが、それもルーデンスの右手によってしっかりと押さえつけられた。

そして、ナナエの口内に少し苦味のある食べ物と一緒にルーデンスのソレも侵入してくる。

息苦しさに呻きながら、ナナエは必死にテーブルについていた左手を離し、ルーデンスと離れようともがいた。

それでも、ルーデンスの体はビクリともしなかった。

その細い体のどこにそんな力があるのかわからない。


「んーーー!!!んんーーー!!」


言葉にならない非難の声を何度も上げながら、ナナエは悔し紛れに拳を握り、ルーデンスの肩を何度も叩く。

それでも、ルーデンスは一向にナナエを離そうとしなかった。

そして。

ナナエがピーマンと思しき食べ物を全て嚥下すると、それを待ったかのようにルーデンスは唇を離し、頭を押さえつけていた手でナナエの左手首を握った。


「っなにするんですか!!」


ナナエは肩で息をしながら大声を張り上げる。

それをとても楽しそうに見ながら、ルーデンスは微笑んだ。


「少し楽になったでしょう?」


そう言ってナナエから手を離すと、ルーデンスはイスに座りなおした。

言葉の意味がわからずに、ナナエは首を傾げてみせる。

それをルーデンスはやっぱりニコニコとした顔で見返した。


「少し息苦しそうだったので、魔力を吸って差し上げたんですよ」

「は?」


確かに、昨日の夜も、そして朝も感じていた息苦しさがすっかりなくなっている。

変わりに魔力を吸われた時にいつも感じる、あの気だるい脱力感が残っている。


「魔封じの首輪をしてると、魔力の逃げ道がないですからね。昨日はあれ以上魔力を吸ったら昏睡してしまうかもしれなかったのですが、今日はもう大丈夫なようで嬉しいですよ」

「嬉しくないです!」

「毎日キチンとガス抜き…魔力抜きしないと死にますよ?」


そう言って、ルーデンスはまたにっこりと笑う。

(…まずい。なんというエロ設定だ!)

ナナエは完全に引き気味である。

このままでは彼氏が出来たこともないのに、キスだけは経験豊富なんてことになりかねない。

しかも、好きでもない男にキスされまくりってのも問題ありすぎである!


「コレ外してくれれば良いだけです」


右手の甲でガシガシと唇を拭いながら左手手首輪を差し、怒りモードのまま提案する。


「外したら逃げるじゃないですか」


しかし、やはりというか…ルーデンスの返答は前と同じだった。

ナナエの怒りを受けてもどこ吹く風といった感じだ。


「逃げません。逃げるよりもしたいことができたので」


ナナエはそれでも諦めずにルーデンスを睨みながら言う。


「なんですか?」

「あなたの…ルーデンスさんの認識を叩きなおして差しあげます。何が紳士ですか!」


そう吐き捨てるように言うと、ルーデンスはくっくっくっとのどの奥で笑った。


一応全年齢対象なんですが…これはまだセーフ?って思いますけどどうでしょうか…


次も短いので一緒にUPします。

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