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<40> 厨二病だって食事したい!

「あははははは」


食堂内からルーデンスの笑い声が聞こえた。

こんなに楽しそうな声を聞くのは久しぶりのことだとナテルは驚く。

とくに、即位してここ5年は嫌みったらしく笑うか、乾いた笑いしか聞いたことが無かった。

気になって入り口から食堂をそっと覗く。


「…よし、うん。見なかった。俺は何も見なかった」


ナテルはキリヤがルーデンスの顔に向けてフォークを突き出してるのを見た。

そしてルーデンスの見たこともないような晴れやかな破顔。

どう考えても答えは一つだ。

周りが見えなくなったバカップルどもが食事の時にするという「あ~ん(はぁと)」ってやつだ。

よもやあのルーデンスが、そんなバカップルのような真似をするとは、信じられない気持ちでいっぱいである。

しかし、ルーデンスの名誉の為に他の者には内緒にしなければなるまい。

口が裂けても、他の者には言えない。

むしろ、言ったら口が裂けるよりも酷い目に合わされる。

ルーデンスによって。


それにしても。


ナテルはキリヤ姫とはどういう人なのだろうと考える。

ルーデンスと共に何度か近くで探っていたことがあるが、その時は犬耳の怖い目の執事がいつも居て殆ど近づけなかったのだ。

ただ、貴族の姫だというのにカフェテリアを経営してみたり、執事と共に自ら食糧を買いに行ったりとなかなか普通には居ない変り種の姫だなとは思っていた。

立ち居振る舞いも貴族の姫としては凄く…何というか元気が良すぎる。

それに、今朝のこともある。


ルーデンスに言われて呼びに行き、扉をノックしようとした時に、ナテルは違和感を感じた。

扉の内側から「シュッ!シュッ!」と変な声が聞こえたのだ。

何かあったのかと様子を窺ってみれば


「せいやぁっ!」


っと、そんな掛け声のあと、ドガンッ!っと凄い音と同時に、扉が急にたわんだ。

ノブを握っていたナテルは驚きの余り後ろに尻餅をついて転んでしまったのだ。

何事かと呆然としてると、「びくともしないかぁ…」とか女性の声がする。

そこで初めてキリヤ姫が扉を壊そうとしていたことがわかった。


そして声をかけて扉を開けて一時思考が停止した。

…貴族の姫と言えば、連れ去られて閉じ込められればしくしく泣いて過ごすのが定番ではないだろうか?

仮に、仮にだ!100歩譲って扉を壊すことにしたとしよう。

室内には花瓶やら火掻き棒やら椅子などがある。

普通はソレを使うだろう。

でも、どれも使った形跡など無かった。

…つまりだ。

蹴るなり叩くなり、至極原始的な方法で扉を開けようとしたということだ。


カフェを経営できるぐらい頭が良く回る女性なのか、道具を使うことにも思い至らないほど頭が悪いのかが全くわからない。


おまけに、だ。

こんなところに監禁されていて、普通は怒ったり、泣いたり、喚いたりするはずなのに、そんなこともスルッと忘れているのか、特に喚いたりもせず、食事の誘いも断らない。

そして、本来だったら嫌って当たり前の人物、ルーデンスと仲良く食事して「あ~ん」してる…。

まったく考えていることが読めない。


だが、その天真さはルーデンスにはないものだ。

それはきっと、ルーデンスにはいい刺激になるだろう。

ガルニアの姫を娶るよりもずっといいとナテルは思った。


ナテルの母親はルーデンスの乳母だ。

つまり、ナテルとルーデンスは乳兄弟の関係にもある。

ルーデンスは幼いころからナテルの自慢だった。

自分にはない冷静さや、人形のような整った容姿、剣を握らせれば人並み以上。

勉強にしても、武芸にしても、ナテルには何一つルーデンスにはかなわない。

それでも、ルーデンスは決してナテルのことを見放したりはしなかった。

あれでいて、自分の懐に入ったものには滅法甘いのだ。

キリヤ姫の天真さが加われば、きっとルーデンスにとってプラスになる。

ナテルはそう思った。


身近なものだけでなく、民にも心を配れる王になればきっとこの国は強くなる。

ルーデンスに足りないのは素直な心なのだ。

幼いころから暗殺や権力争いに巻き込まれて育ったゆえの性格なのだが、それでは惜しい。

飾らず民に接すれば、民と心を通わせることが出来るはずだ。

どうしても損得で考えてしまうあの性格を直すことが出来たら。

それが出来るのは、キリヤ姫なのかもしれない、2人は出会うべくして出会ったと、ナテルは思い始めていた。


そして。

懐に入ることもかなわぬまま、顔も知られず、名前も覚えてもらえぬまま亡くなるであろうガルニアの姫を思って胸を痛めた。

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