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<37> 狐と狐

「…余計なことをしてくれましたね」


ジロリとナテルを睨み、ルーデンスは舌打ちした。

宿屋の1階部分にあるBARではルーデンスにとって見覚えのある人物が宿泊エリアへの階段を窺うように席についていた。

彼女のそばに時々居た金髪の青年だ。

キリヤの身辺を調査したときに彼女の回りにいる人物の大体の把握が出来ている。


「だって、ルーデンス様。急に娘が居なくなったら誰だって心配になるじゃないですか。せめて無事ですよって教えてあげたくなるのが人情というものでして」

「安っぽい人情なんていりませんよ」

「たかが花1輪ですよ?それで此処まで来るなんて思うはずがないじゃないですかぁぁぁ」


確かに、キリヤの周りには妙に有能な者が多い。

それはルーデンスも疑問に感じているところだ。

階上の死角から青年の様子を窺いながら対策を考える。

先ほど転移の魔法を使ってしまったために魔力を消費しすぎている。

今すぐ二度目の転移を使うことは出来ないだろう。

キリヤの魔力を使うことも考えたが、妙な薬を飲まされた為に意識を取り戻していない。

この状態で魔力を奪えばどうなるかがわからない。

せめてキリヤが目を覚ますまでは時間を稼がねばならない。


「私が時間を稼ぎます。もし踏み込まれたときのためにもキリヤの身を隠しなさい。いいですね?」

「ふぁぁ~い」


全くやる気がなさそうなナテルを再びジロリと見る。

そもそも供をナテルにしたのが間違いだったと後悔しなくもないが、まぁ想定範囲内だ。

失敗も多いがナテルが居るおかげで妙に気を張らなくてすむのだ。


「では、頼みましたよ」


そう言って、ルーデンスは階段をゆっくり下りていった。







一目で貴族だとわかる優雅な立ち居振る舞いで、その青年は階段を下りてきた。

空いている席に腰を掛けると、飛んできた店員と2,3言葉を交わす。

そこには怪しいところは何もないように感じた。

運ばれてきた料理を上品につまみながらワインを飲んでいる。


「ご一緒してもよろしいですか?」


リフィンは覚悟を決めてその男に近づき、声をかけた。

その男はチラリとリフィンを見ると微かに微笑み、「どうぞ」と短く応える。


「何か御用がおありで?」


その男は特にリフィンに興味を持たない様子で、ワイングラスを回すように揺らし、その色を楽しみながら言う。

全く自分には心当たりが無いとでも言うようだ。


「たいした用ではないのですが…河の向こうからいらっしゃったとお聞きしたもので。あちらの話を退屈しのぎに聞きたいと思いましてね。ああ、そう。私は──」

「存じておりますよ。この町の名物になってるカフェテリアの方ですよね?先ほどあちらの娘さんが噂されてました」


男が指し示した方には店員の娘が2人こちらを見ながら話している。

なるほど、と頷き男の目の前の席に座る。


「私はルーデンス。エーゼル国の貧乏貴族の息子ですよ。大した話も出来ません」


くっくっと喉の奥で堪える様にルーデンスが笑った。

貧乏貴族などと明らかに嘘とわかることを小馬鹿にしたように言う。

リフィンの嘘を嘘とわかっているからこそ、嘘で返したのだろう。

──食えない男ですね。

何故か愉快な気持ちになってリフィンは口元を緩めた。

そして、店員を呼ぶと自分も同じくワインを注文する。


「この時間は、営業中ではありませんでしたか?」


ルーデンスはニヤリと笑いながらワインを一口含む。

言外の牽制を感じてリフィンも微笑を返す。


「人を、探していましてね。今日はもう店じまいをしたのですよ」

「ほほう…で?その探し人と私と、どのような関係が?」

「さぁ?それはこれから、って感じでしょうか」


給仕されたワインを口に含む。

お互いに核心に触れずにグラスを傾ける。


「まさか、私が拐かしたとでも?はは、困ったな。さて、何をして潔白を晴らしましょうか」


心外だとでも言うようにルーデンスは両手を広げた状態で肩をすくめ、困ったように笑った。

その仕草も、なんとも芝居がかっている。


──さて、どう攻めようか。


グラスをあおる様に空けながら、思案をめぐらす。

恐らく部屋を検めさせろといえば二つ返事で頷くだろう。

そこにナナエの姿は見つけられないはずだ。

それぐらいの手は打っているだろう。


──いや、それでいこう。あえて乗ってやろうではないか。


リフィンはワインで濡れた己の唇をそっと舐め、親指で拭った。

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