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<29> マーケティングリサーチで事業計画

ひとえに職探しといっても、ナナエにはこの世界の常識が余り無い。

体力自慢でもないし、知力も微妙だし、魔力だけは腐るほどあるのだが、あるだけだ。

このままじゃホントに腐るってぐらい使い道が無い。

っていうか


「偉い人は言いました。働いたら、負けだと思っている!」

「なにアホ抜かしてるんじゃぁぁぁ!」


カイトのスリッパが飛んできた。


「冗談半分で言っただけだよ!冗談もわからないとか、これだからカイトは!」

「冗談半分って半分本気ってことだろ!大体負けって何だよ、負けって!無職って書かれた登録証かがげてる時点で負け組み確定だよ!」

「たかが無職ぐらいなによ!彼氏居ない暦=年齢で四半世紀生きちゃった私はすでに負け組みなのよ!いまさら無職ぐらい何よ!」

「…」


リフィンとカイトとトゥーヤの視線がナナエに集まる。

明らかに可哀想なものを見る視線だ。


─冗談のわからない奴らめ。…彼氏居ないのは本当だけどさ。




ホントのところ。

ナナエは働く必要が無いと言われた。

あの邸宅の持ち主である田舎貴族の娘という設定になってるらしい。

名前も念のため”キリヤ”という偽名(…つか本名だけど)を使い、トゥーヤも人前ではナナエのことを”お嬢様”と呼ぶことになった。

なので大人しく貴族ぶっててくださいと言われたのだが、カイトもリフィンも、マリーですら就活しているのに、自分だけ何もしないというのも居心地が悪かった。


出来れば、楽で、楽しくってドカンっと稼げるのが良いな~とか思っていたりするのだが中々思い浮かばない。


普通に就活しろよ。


とか思わなくも無いが、それじゃあつまんない。

ナナエは自分に出来ること、自分にしか出来ないことで一発当てたいと考えていた。

表面上貴族の令嬢で通すなら、自分が直接働くよりも何か事業を起こしてみるのはどうだろうか、と思っている。

とりあえず、この町のことを知らなければ何も出来ない。

そう考えたナナエはトゥーヤをお供に散策してみることにしたのだ。





ここライドンの町は国境にある港町で王都ほどではないがかなり栄えている。

国境にあるためか様様な種族がひしめき合っていた。

王都が庶民に支えられる貴族中心の華やかな町だとしたら、ライドンは商人中心の賑やかな町だ。

毎日開かれる市場は活気にあふれている上に、見たことも無い品々が並んでいる。

その分、王都並みに物価が高い。

…高すぎる。


「たった3日で軍資金が尽きた理由がわかる気がする…」

「お嬢様が飲んだシャンパンでほとんど飛びましたしね」

「…うぐぅ」


さっきの店にナナエが飲んだシャンパンと同じものが並んでいた。

その値段…嗚呼、思い出したくも無い。

あの日、ナナエは「セレンの快気祝いにいい酒買ってきて♪」なんて可愛くねだってみたのだ。

そして。

まだセレンが全快してないのに、飲んでしまいました。

一人で。

その値段を聞いたとき一瞬意識が飛びかけた。

そんなに高い酒だと知ってたらきっと飲んでなかった。たぶん。


「アレが無ければ、あと2週間ぐらいは生活できたかと」

「ひぃぃぃぃぃ!それ以上言わないで!私を良心の呵責で殺す気か!!」


そう、ホントはこれが原因だった。

誰よりも稼がないと、後ろめたいことこの上ない。

なんとかこのライドンの町を見て新しいなにかを思いつかねばならない。

しかも、その後ろめたさを払拭できるほど稼げる一発屋的な何か…が必要だった。


よくよく考えると、事業を始めるための軍資金が無いじゃん。

なんて最初はナナエも思っていたのだけれど、そこら辺は大丈夫!

トゥーヤが屋敷の調度品を質に入れてくれたりなんかして、資金を調達してくれた。

トゥーヤの父親が大切にしている絵画や一流家具職人の家具で、バレたら父上に殺されるってマリーが泣いてやめってってトゥーヤに懇願してたのが思い出される。

流石ナナエ専属執事!ナナエのためなら命がけ!


”買い戻さなかったらお嬢様を娼館に売り飛ばします”


とか淡々と多少怖いことも言われた気もするけど、気にしない!

大丈夫、ナナエには異世界での知識がある。

その知識を生かせば一発逆転狙える!

あのお高い酒も定期購入!質草も買い戻す!

おなかいっぱいご飯を食べてやる!

成功さえすれば定期的に収入の入る事業を起こすのだ!


「巻き起こせイノベーション!唸れ経常利益!喜べ胃袋!」


若干違うのが混じっていた気がしないでもないが、ともかく、そんな決意を元にナナエは町の様子を詳しく見て回る。

 ライドンの町は確かに賑やかで、人も多く事業をするにはうってつけのように思えた。

そして一発当てるためには、ここには無いものを持ってくる必要がある。

ナナエは思考をめぐらせる。

──平凡なものではダメだ。

この賑やかな町で、埋もれてしまわない何か。

そうして、ふと気づく。

ここは貴族が少ないのが特徴でもあり、狙いどころだ。

商人が中心だからこそウケル何かを考えねば。

市場や商店街にある店の種類や置いてある商品の傾向などを、ナナエは片っ端からメモを取った。

執事を連れたお嬢様が、一心不乱に何かを書いているのはとても奇妙な光景だったが、ナナエには果てしない野望があるのだ。


───まってろ、私の豪遊生活!

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