<28> 崇高な使命
「さて、ここで問題です」
まるでクイズ番組でも始まるかのような雰囲気でマリーが言った。
セレンが目を覚ましてから3日後のことだ。
未だ寝台の上で過ごしているセレン以外のみんなを居室に集めて指を立てる。
そうして、ファルカ家よりの使いから受けた知らせについて、そして現状を話し始めた。
ここはファルカ家の邸宅ではあるが、体面上はとある田舎貴族の別荘と言うことになっている。
自由に使用して良いし、当面の間は身を隠す為に困ったこともないだろう。
ただし、問題があるとすれば。
ファルカ家からのこれ以上の援助は表立っては望めないと言うこと。
今、王都では所謂王族派狩りが宰相バドゥーシによって秘密裏に行われている。
恐らく、逃げ延びたと思われるセレン王子をあぶり出しに掛っているのだ。
宰相の意向に従わなかった王立魔道研究所は取り壊し、及び責任者の処刑。
また、力の弱い王族派貴族たちはことごとく、領地没収及び領主の処刑が行われているのだ。
ファルカ家は元々表面上は王家とは殆ど係わり合いになっていない。
あくまで暗部の担当だからだ。
だから、今は何とか王族派の貴族狩りからは逃れられている。
だが、こちらが何かするたびに援助を求めていては足がつく。
そしてそれにより、どちらも動きづらくなる可能性があるのだ。
連絡を絶ち、各々で王座を取り戻す為に動かねばならない。
「で、問題なのはここからです」
マリーが真剣な顔をして、腰に手を当てていった。
「明日からのご飯がありませんっ」
その言葉に、みなピタリと動きを止めた。
確かにここに来てから3日間、前日までの強行軍の反動かわからないが、みんなよく食べた。
よく食べたし、よく眠ったし、昨日なんかはお酒まで嗜んじゃった!
もともと田舎貴族の別荘扱いだから管理人も1人しか居なくて、食料だって少ししか置いてなかった。
それをファルカ家の使いの者が置いてった金で、そりゃーもう飲み食いした。
(あれが、最後のお金だったのね…)
冷や汗がタラリと背筋を流れる。
「ナナエ様のお食事は、私が責任を持ってご用意いたします」
トゥーヤがボソリと言う。
流石は専属執事!
例え仲間や自分が食べれなくても、主の分だけは何があっても用意する気なのだ!
執事の鑑だ!
「幸い、管理人が庭園にニンジンを栽培しておりましたので。朝・昼・晩、ニンジンになりますが」
さぁ、今すぐその庭園を焼き払おう。
問答無用だ。
アレは食べ物ではない。
あんなモノはこの世界にあってはならない。
この手を汚してでも完遂しなければならない。
青臭い生状態での匂いと味も、火を入れたときのあの甘ったるい上に薬品っぽい味と、ぐにゃりと気持ちの悪い食感も全て、全て”悪”だ。
駆逐してやる…この世から…一本…残らずっ!!
黙って立ち上がり、指輪を外しながら扉に向うとマリーが慌ててそれを遮る。
「ナナエ様ぁぁぁぁぁ!ニンジン食べなくていい方法考えましょ!ね!?ね!?」
そう言って必死にナナエを食い止めようとする。
それでもなお扉を開けようとすると、頭にカイトのチョップが炸裂した。
生意気な!今まで空気だったくせに!
「なにすんのよぉぉ!私には世の中の悪を排除すると言う崇高な使命が!!!」
「ねぇよ!そんなモンねぇよ!なんで正義の味方風味なんだよ!ってか、たかがニンジンで子供か!!」
「偉い人は言いました!たかがニンジン、されどニンジン!って!!ニンジンを笑うものはニンジンに泣くんだよ!!??」
だがちょっと待って欲しい。
ニンジンに泣いているのはナナエだけだ。
「まぁ、現実問題、働いた方がいいと思いますが」
そんな仲の良い二人のやり取りに割り込むように、穏やかな口調でそう言ったのはリフィンだった。
そうして首に掛ってたネックレスを皆に向けて見せた。
「ちょ…まって…まさか…」
それを見たナナエもカイトも、慌てて自分のネックレスを取り出し裏返してみる。
そしてすぐに、カイトとナナエは青い顔をしながらお互いの物を見せ合う。
首にかけた戸籍登録証。
その名前と年齢の下には燦然と輝くように書かれていた。
───”無職”と。
ニートから無職になりました…。




