<27.5> 幕間
町に着いたばかりの時だった。
毒の為、寝台に臥せっているセレンの側でナナエがまんじりともしない夜を迎えていた時だ。
トゥーヤがリフィンとカイトを居室に呼び現況報告としていくつかの情報を持ってきた。
まずは王都について。
ファルカ家よりもたらされた情報はひどく不快な内容だった。
ドゥークの軍は沸いたように現れた後、すぐ様王城を占拠した。
当時王城に居た王太后はドゥーク軍にその場で斬首され、王、王妃共にすでに何者かが殺害した後だったと言う。
その後、数刻もしないうちにドゥークの軍は潮が引くように撤退し、何故かその後宰相がまるで王のように声明を発表する。
宰相バドゥーシの手腕により、敵国ドゥークの軍を退けることが出来た。しかし王、王妃、王太后は殺害され、王子の行方も依然不明である。その王子と宰相の娘イザーナとは婚約状態にあり、王位継承者の正妃に賜る指輪をも所持している。そのため、王子帰還までイザーナを王の代理の女王として擁立し、その後見を宰相が行う。
そんなどう考えても無理やりな声明を出したのだ。
もちろん、バドゥーシには王子の帰還を待つつもりなどサラサラないはずだ。
むしろ王子を殺そうと躍起になって王子の居所を探している。
そのため王家と懇意にしている貴族はことごとく強盗という隠れ蓑の、貴族狩りの憂き目にあっているのだ。
それはリフィンやカイトの家も同じで、リフィンの家では既に母親が命を落としかけ、かなりの厳戒態勢になっている。
カイトの家も同じような状態ではあるが、騎士の家系と言うのもあってかリフィンの生家よりは手が出しづらい状態にあるようだ。
どちらの家も、現在はファルカ家の手のものが影ながら警護を続けているらしい。
それが、王太后の遺志でもあるからだ。
ファルカ家の当主はかなり昔から、王太后に何かあったときは王子とそれを支えるものたちの保護を指示していたらしい。
ただ、それも全てを保護する程には至っていないため、力の弱いものほど狙われているのが現状だ。
2つ目に、カイトの姉アンナが所長を務める魔道研究所のこと。
表向きは王意に背いたとして責任者がことごとく処刑された。実際はバドゥーシが画策しているなんらかの計画に従わなかったために順番に殺害されたとの言質が下っ端研究員から取れた。
所長であるアンナは行方不明になっていて、バドゥーシに捕らえられているのか、逃げおおせたかは不明であるらしい。
トゥーヤの報告とはこのことをセレン、そしてナナエに告げるかどうかの判断も含まれていた。
王家の余りの惨状にカイトもリフィンも息を呑む。
だが、おそらくセレンはおおよそ感づいてはいるだろう。
あの離宮の襲撃の時、必死に王城に戻りたがっていたのもその理由だろう。
そして、それを断念して逃亡を決めた時、もうセレンの頭には最悪の事態は想定できていた筈だ。
だからこそ
「王家の血を絶やすわけにいかない」
と、吐き出すように言ったのだ。
酷ではあるがセレンの回復と共に告げねばならない。
この際、本気で覚悟を決めてもらわねばならない。
自分の野望のために平気で敵国と繋がる男にこの国を任せてはならない。
意に従わないからと次々に手をかけるその様はまるで恐怖政治ではないか。
そしてリフィンはそっとカイトの表情を盗み見た。
アンナはカイトの姉であると同時に、セレンやリフィンの姉といっても過言ではないほど関わって来た。
そのアンナの消息を考えると胸が痛む。
実弟のカイトなら尚更だろう。
ふとカイトはその視線に気づいたようにリフィンに向き直った。
「姉ちゃんなら、大丈夫。そんな柔じゃないさ。殺しても死ぬようなタイプじゃない」
そういって笑い、”だから心配するな”とリフィンの方をトンと叩いた。
その笑顔にひどく安堵感を覚えて、リフィンもつられて笑った。
「ナナエにはどうすっか」
「適当にぼかしましょう。元々ナナエは巻き込まれただけです。陰惨な話をワザワザしなくてもいいでしょう。魔道研究所のことも…アンナの居る研究所だとわからなければ問題ないです」
リフィンがそう言うと、カインもトゥーヤも心得たように頷いた。
抜けてるのに気づかなかった部分です。
すみませんでした。




