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<24> 遁走

普段の数倍もの眩暈と物凄い疲労感によろけると、後ろで誰かがナナエを支えた。

かすかに血のにおいがする。トゥーヤだ。

と同時に戦隊特撮物もビックリの派手な爆発音が聞こえて、ナナエは恐る恐る目を開ける。

そしてゆっくりと辺りを見回す。


「…おい」


セレンが険しい顔でナナエを見た。


「偉い人は言いましたっ!」


何かを言おうとしたセレンを遮るようにナナエは大きな声で言う。


「僕の前に道は無い!僕の後ろに道はできーーーーーるっ!…よしっ!」


ナナエはガッツポーズでなんとなく煤けた感じの皆に笑顔を向ける。

と、同時に”スパコーーンッ!”っとカイトがナナエの頭を横殴りした。

何故か手にはスリッパが。

やるな、カイト。


「なに”やり遂げた”感出してんだよ!敵、無傷じゃねえか!むしろこっちが大損害だよ!どうすんだよ!」


そう、ナナエの前にあった正門は無傷。

その代わり…離宮が半分消し飛んでいた。

あのすぐ側で感じた熱量は、ナナエの前ではなく、後ろにすっ飛んで行ったのだ。


「まぁ、予想の範疇でしたね」

「デスヨネー」

「制御できないのは威力だけじゃなくて方向も、なんて初めからわかってましたけどね」

「方向制御できてたら私たち、あそこまでずぶ濡れになりませんでしたしね~。この状況ならもしかして奇跡的にうまくいくかも!って一縷の望みにかけてみたんですが…」

「ないものねだりでしたね」


リフィンとマリーが全く動じずに頷く。

ナナエの”俺TUEEEE伝説”は幕が開く前に主人公の退場を余儀なくされた。

セレンは「私の離宮がーー!」とか「母上お気に入りの庭園がーーー!」とか嘆いている。

まぁ、その母上お気に入りの庭園とやらは3日前にとっくに無くなっていたのだが、セレンは知らない。


「さて、どうしますか」


リフィンがにこやかに微笑みながら言うと、トゥーヤは静かに後方を指差した。

そこはナナエの魔法で炎の放たれた跡が道のようになっていた。

大きな湖も大きく2つに分断されるようになっていて、瓦礫が積み重なった道が出来ている。

なんというご都合主義だ!


「おおっ!モーゼは本当に居たんだ!私こそがモーゼなんだ!十戒ブラボー!」


とかナナエが興奮してみるものの、みんなのスルースキルが半端無い。

ガックリとうな垂れるナナエの肩を、無表情のままポンポンと慰めるようにトゥーヤが叩く。


「モーゼって?」


慰めてなかった。


そんなふざけている間、正門、西門を囲んでいた兵士たちが黙ってみているわけも無く。

一向に出てくる気配も無く、突然離宮から聞こえた爆音に異変を感じたのか、突入しようと動き出していた。

下ろされた城門を破壊しようと大きな音が聞こえてくる。


「とりあえず、まぁ…城門が壊される前に走って逃げましょうか。湖の向こうは森がありますし、そこまで逃げれば何とかなるでしょう」


リフィンがそう言うと、皆真剣な面持ちになって頷き、離宮後方、湖の向こうの森を目指して駆け出した。


だがしかし。


皆、1分も走らないうちに足を止めた。

そうして後ろを振り返り、困ったような呆れたような微妙な表情をする。


「ちょ…ちょっと…まってよ…はぁはぁ」


このなかでたった一人、ドレスなんかを着ちゃってるナナエは息も絶え絶えになりながら追いつく。

そもそも、ついさっきムダに魔力を膨大に消費したばかりだ。

ついでに言うなら夕飯食べたばっかりだ!

普段の状況でもドレスってだけでアウトなのに、ナナエは既にヘロヘロ状態だった。


「お前…おっそろしく足手まといだな!」


先ほどマリーに言われた仕返しなのか、セレンが物凄く嬉しそうに親指を立てながらナナエにそう言った。

ナナエはゼイゼイと息を切らせて膝に手をついた。


「私が、お連れします」


そう一歩前に出たのはトゥーヤだった。

流石ナナエ専属執事!決して主人は見捨てない!

皆は「任せた」と再び走り出す。


「失礼します」


とトゥーヤがナナエに近づく。

これは、ナナエが夢にまで見た”執事にお姫さま抱っこされる”シチュである!

これが萌えずにいられようか。

興奮と期待の覚めやらぬ目でナナエはトゥーヤに頷き返した。

そんなナナエの許可を確認すると同時に、トゥーヤはナナエへと手を伸ばした。


「…ちょっと待って!」


ひょいっと肩に担ぎ上げられてナナエは呆然とした。

急いで制止の声を掛けたのだが、トゥーヤは有無を言わさず走り出す。

その振動でトゥーヤの肩がナナエの胃に食い込む。飛び跳ねる。食い込む。飛び跳ねる。食い込む…


「・・・ちょ…まって…吐く、絶対吐く!…うっぷ、待っててば…うぐっ…夕飯…リバースするぅぅぅぅ」

「喋ると舌、噛みます」


全く聞く耳を持たないトゥーヤを恨めしく思いながら、そして青い顔をしながらナナエは懸命に両手で口を覆うしかなかった。

ナナエの”俺TUEE…ええっ?伝説”でした。

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