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<21> 侍女の違和感

侍女の朝はそれなりに早い。

まぁ、マリーは別だけれど。

ナナエ付きの侍女になるまでは、他の侍女と同じように外が白み始めたころには起きていた。


だがしかし。


ナナエの朝は異様に遅い。

そのナナエに付き合っているうちに、マリーの朝も、それなりに早い程度になってしまった。

他の侍女仲間はとっくに仕事を始めている時間に起きることにしている。

それでなくとも、他の侍女よりかなりハードなのだ。


マリーは王子よりナナエの警護も任されている。

ファルカ家の娘としては、やはり警護よりも暗殺の方が得意なのだが、王子の命ならば仕方が無い。

ナナエの居室に向かう廊下に面した部屋をあてがって貰い、寝ているときでも常に細心の注意を払って小さな物音ですら起きるようにしている。

だから何時間寝ても疲労がなかなか取れない。


先日、王子に警護の人数を増やして貰えるよう願い出た。

当初は用心のためと言う程度で、それほどまでの必要性を感じなかったのだが、想定外のところから横槍が入ったのだ。

毎日のように朝昼晩と定時報告のように、ちょこちょこと凝りもせずにやってくる。


そう、宰相バドゥーシの手の者が頻繁にナナエを狙うようになったのだ。


どうやら己が娘を妃にするために、王子に保護されている女が邪魔になると判断したようだった。

最初は他愛ない嫌がらせのようなものだった。

その嫌がらせに屈して出て行くように仕向けるような、そんな些細なもの。

留守中に部屋を荒らされたり、動物の死骸を撒かれたり、食事に痺れ薬が混ぜられるなど本当に些細なものだった。

それが本格的になったのはすぐの事だった。

どこから話が漏れたのか、王子が随分と入れ込んでいるとの噂が立った。

それがほんの数日前だ。


そのすぐ後、離宮の侍女が一人、死んだ。


ナナエに背格好の良く似た、まだ年若い侍女だった。

たまたまナナエの寝台のシーツを取替えに来ただけだった。

全て極秘裏に片付けたので、ナナエは恐らく気づいても居ないだろう。


守らなくては、と自然とすんなり思えた。


警護の任は初めてではなかったが、そう素直に思えたのはナナエが初めてだった。

屈託の無い笑顔でマリーを呼び、年上なのにだらしなくマリーに甘える。

食事を取るときも、お茶を飲むときも、決まってマリーを側に呼んで”一緒に”と誘ってくれた。

人懐っこくお人よしで、自分が暇な時にマリーが働いていると、断っても断っても手伝うと言って聞かなかった。

まるで年上の妹、そして友人が出来たような感じだったのだ。


自分ひとりでは守りきれないと素直に認められた。

失いたくないと思えた友だから細心の注意を払って守りたかった。


ちょうどその時、ナナエが王子に専属執事をねだったと言うことで、男性の従者を探しているところだった。

それならば、是非ファルカ家の者を、と王子に強く願い出た。


トゥーヤが選ばれたのは、きっと選ばれるべくして選ばれた。

そもそも、トゥーヤしか適任者が居ない。

送り込まれる刺客もだんだんと手練になっている。

きちんと執事らしく振舞いつつ、刺客を退けるなんて芸当はトゥーヤにしか出来ない。

多少感情の起伏に乏しいのが難点ではあるが。


だからこそ、ナナエにトゥーヤを会わせたあの時、マリーは驚いた。

トゥーヤの表情がわずかにではあるが、そうと認識できるほど動いたのだ。

そのあとナナエに愛称で呼ぶように告げた時には別人かと一瞬疑ったほどだ。


結局のところ、ナナエに妙に惹きつけられてしまったのだ。マリーもトゥーヤも。


--しかし、何かがおかしい。


トゥーヤが来る事になった昨日より、刺客の手がピタリと途絶えた。

夜だけならば、マリーがそうと感づく前にトゥーヤが排除していると言うことは十分考えられた。

だが、定時報告のようにきちんと来ていた刺客がトゥーヤが配属される前の朝や昼にも来ていないのは、どう考えても不可解だった。

嫌な予感がする。

うとうとしながらそんなことを考えていた。

外はうっすらと白み、小鳥のさえずりが聞こえ始めている。

不意に、ナナエの部屋へ続く廊下を歩く者の息遣いに気づいた。

革靴を履いているのに固い床の上も全く音をさせずに歩いている。

その者の微かな衣擦れの音が心地よい。

(…これで寝られる)

マリーは安堵の息を漏らした。

トゥーヤが起きてナナエの側にいるなら、神経を張り詰めてまどろむ必要はない。

マリーは安心して、4日ぶりに布団の中で意識を手放した。

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