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<18>

目の前には可愛らしくはむはむと肉に齧り付くナナエ。

その右側にはナナエの口元の汚れを「ほら、口元にソースがついてるじゃないかぁ♪」とか言って、ニヤニヤ笑いながらハンカチで拭うカイト。

それを「もおっ、自分で拭けるってばぁ~」なんて甘い声を出しながら、目を閉じて気持ち良さそうにされるがままになっているナナエ。

…あくまでも邪な目で見ているセレンだけの主観である。


「…どうしてこうなった」

「はふ?」


ボソっと呟くと、それに気がついたようにナナエがきょとんとした顔でセレンを見る。

 離宮に行ったものの、ナナエは既にカイトと外出中とのことで、急いで追いかけるようにやってきたはずだった。

どうにもカイトとナナエの仲が良すぎてイライラする。

だからその間に入ってやろうと追ってきたのだ。

それがいざ追いついてみると、仲がいいというか…まるで餌付けされているペットのような状態になっている。


「あ~、王子。もう政務は終わったとか?」

「いつもの下らない主張合戦してるから抜けてきた」


話題を求めるようにカイトが尋ねてくるのも面倒で、セレンは適当に返事をする。

そして、不機嫌そうに見やると、カイトは訝しげに視線を返してくる。

カイトが妙にナナエに馴れ馴れしいのが、セレンにとって不快だと言うことに全く気がつかない。

気を利かせて席を外すなんて、カイトには望めそうに無かった。


「なんか用…ですか?」


王子であるセレンに全く敬意を示さずに、ナナエが聞いてくる。

しかも敬語が取ってつけたように追加される辺りが胸に痛い。

3日前のこともあって、ナナエはかなり警戒しているようだった。

カイトには気安く触れさせるくせに、セレンにはこうやって会っただけで微妙な表情を向けてくる。

そんな態度の違いに、セレンは自業自得とは言え苦々しいものを感じていた。


「用が無ければ来てはいけないのか、と言いたいところだが…用ならある」


今回こそは失敗できないと思い、ナナエの言葉にイラっとしつつも言葉を押さえた。

もう2度失敗している。

次は無い、とセレンは自分に言い聞かせる。

このままだと顔を見ただけで睨まれる様になるのではないかと思うと、迂闊なことは言えなかった。


「先日はすまなかった。言葉が過ぎた」


一気に言う。

なんやかんやと言葉を重ねた後では、プライドが邪魔をして言えないと判断した為だ。

これ以上関係を拗れさせるつもりはないのだ。

出来れば今すぐにでも、カイトポジションに置き換わりたい。

それまでは、我慢、だ。


「別に、いいです、けど」


”けど”何なのだろう。

妙に言葉が途切れがちになるのも気になる。

ナナエの表情を伺うと、明らかに不信感丸出しの顔をしている。


「本当に反省しているのだ。ナナエの言うとおりだ。そなたの気持ちも考えずに押し付けて悪かった」


畳み掛けるように言い募ると、ナナエも「わかりました」と頷く。

それでも、まだ不十分のようにしか感じられなかった。

でも、同じ間違いはしない。

この3日間の間、何回もイメトレしてきたのだ!

多少の罵詈雑言なら受け流す覚悟だ。


「何か詫びをさせてもらえないだろうか?今度はナナエの意向をちゃんと考慮する。大げさなものにしないし、嫌だと言うなら無理強いもしない。なんでも望みどおりにしてやる!」


”してやる”と言ったとたんにナナエの眉がピクリと動いた。

言い方を間違った!と冷や汗が背筋を伝う。


「特に、必要、ありませんが」

「が?」

「いや、必要、ないです」

「なんでもいいんだぞ?」

「いらないです」

「そこをなんとか!ちょっとだけでも!」

「いらない」

「私の顔を立てると思って!」

「いらん!」


ドンッ!とナナエがフォークを持った手をテーブルに叩きつける。


「しつこい」


不快さを前面に押し出すような視線で、ナナエはセレンを睨む。

その表情にセレンは”コレはマズイ”と顔を引きつらせた。


「あ~…ナナエ?」


そこで初めてカイトが口を挟んだ。


「王子も悪気があってやってるわけじゃなくて、ナナエが喜ぶ何かがしたいんだよ。ここは折れてやってさ、なにか一つだけでもねだってやったらいいんじゃないか?」


(いいぞ、カイト。もっとやれ!)

珍しく空気を読んだカイトのフォローに、セレンはまるで天の助けとばかりに勢いよく頷いてみせる。

するとナナエはカイトの方を向き、少し困った顔をした後、セレンのほうに向き直り、やっぱり少し不満気な顔をした。

そして、何かを悪戯を思いついたかのように口の端を少しあげた。


「なんでも、いいんですか?」


さっきまでの不機嫌な顔とは打って変わってニッコリと微笑む。

自分に向けられたその笑顔が嬉しくてセレンはまたもや勢いよく頷いた。


「ホントに?」

「このセレン王子に二言などあるものか!」

「絶対かなえてくれます?」

「何があっても必ず、だ。名誉にかけて誓おう」


念を押すようにそういったナナエは人差し指を頬に当て、可愛らしく首をかしげた。


「じゃあ、イケメンで万能な私の”専属執事”ください」




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