<12.5>
彼は今、色とりどりの花やスイーツの包み、そして煌びやかな宝飾品を目の前にして、非常に悩んでいた。
生まれて初めて女性に送る品を選んでいる。
今まで女性に物を送ることなど一度たりともなかったのに、だ。
女性を怯えさせて泣かせてしまった。
そんな事は一度たりとも経験がなかった。
思い返せば、思い返すほど。
あの泣き顔しか思い浮かばない。
考えれば、考えるほど。
罪悪感に苛まれて、いたたまれない気持ちになる。
おまけにその事が祖母の耳にも入ってしまい、彼女を晩餐に招待して祖母と一緒に頭を下げなければならないと言う一大イベントも控えている。
もちろん、謝罪をすることに異論はなかった。
簡単に踏みにじれる立場にあるからこそ、簡単に踏みにじってはならない。
それは祖母の矜持でもあり、自分もそう理解していたはずなのだ。
何がどこで狂ってしまったのだろう。
あのときの自分はどうかしていたのかも知れない。
そして、ふと、思い当たる。
(まさか…あの魔力に当てられて発情したと言うのか?)
いや、例えどんな理由があったにしろ言い訳などできよう筈もない。
自分がしたことは事実に間違いないのだから。
だからこそ、何とかして謝罪をしたかった。
祖母と共に頭を下げるのだけではダメだ。
それだけでは足りないと思った。
「女性に謝罪する時に、誠意を表すのにはどうすれば良いか」
政務の最中に大臣になんとなく相談してみた。
今でこそ、穏やかな老人ではあるが、若いころは色々と浮いた噂の多かった男だと聞いている。
経験豊富な者に意見を求めるのが確実と思われた。
「殿下、女性にもっとも有効なのはプレゼント、でございます」
目じりのしわを更に深くしながら大臣はゆっくりと自信満々にそう言った。
「花、宝飾品、スイーーーツ!これしかありませぬ!!!!」
そして、今度はカッ!っと目を見開いて断言する。
かくして、王子はそれらを前にして頭を抱えることになるのであった。