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【04-09】

「まさか、理事長が、でも、そんなことって」

 

 明らかな動揺を見せる明星。

 と、颯一のポケットで携帯が震えた。

 

 明星に断ってから耳に当てる。

 二、三語短く答えるだけで通話を終わらせた。

 

「理事長が発見されたそうです。場所は北の山地。かなり奥に入ったところ。自分の車にひとりだったそうです。遺書らきし物もありました」

「そんな、理事長が自殺なんて」

「理事長は自分に嫌疑が掛かっていたのを知っていた可能性があります。そして逃げ切れないと悟り……」

「まさか、それじゃあ、本当に理事長が……」

 

 口元に手を当てながら立ち上がると、ふらふらと後ずさった。

 

「実に安っぽい筋書きですね」

 

 颯一が溜息交じりで続ける。

 

「安心して下さい。理事長は無事です」

 

 意味が解らなかったのか、明星はきょとんとした顔になる。

 

「一昨日に理事長の持ち物にGPS発信機を付けておいたんです」

 

 発信機の取り付けは舞に頼んだ。

 彼女は春から調査で、教師達の行動をほぼ把握している。

 理事長のバッグにこっそり発信機をつけるのは、難しい任務ではなかった。

 

「昨日、帰宅せずに山に向かったので、警察に頼んで保護をお願いしました。車内には練炭が置かれ、理事長も多量の睡眠薬を飲んだ状態でしたが、命に別状はありません」

 

 颯一からの連絡を受けた純は直ぐに手筈を整えてくれた。

 頼りない外見と情けない言動とは裏腹に行動が早い。

 ただ、颯一からの指示に何の疑いも抱かず、鵜呑みにしてしまう点は、不安と言えば不安なところではある。

 

「『死の九番』はとても狡猾で手強い。自分の正体を隠すことを第一に考えて行動している。自分を追う人間が、どう考えて、どう行動するかというのを良く知っている」

 

 言葉を止める。

 数秒間、明星の反応を待った。

 

「僕も騙されるところでした。何故、教職員のデータがセキュリティの甘い事務室内で管理されているのか。何故、三十年間勤務している教師がいないのか。何故、短期間で一般職員や出入業者を切り替えるのか。答えはひとつ。理事長が『死の九番』であると思い込ませるためです。そして追跡者がそこまで辿り着いた時点で次の手を打つ」

 

 颯一が目を細めた。

 

「それが理事長の自殺です。彼女は遺書に自分が『死の九番』である、とほのめかす内容を残します。もちろん、追跡者はあまりに出来すぎた展開を訝しがるでしょう。でも、それを機に『死の九番』による殺人が収まれば、いずれはそれを真実だと思い込むようになる。僕らを襲った黒いマントの化け物と同じです。しかし、同じことを繰り返せば、これが本物だと思い込んでしまうようになる。いくつも張り巡らされたループ。そこに出来た偽の出口を、本物だと信じてしまう」

「なかなか面白い考察ね。じゃあ、聞かせてもらうけど」

 

 ようやくにして明星が口を開いた。

 

「本物の『死の九番』とやらは誰なのかしら? 理事長以外に、三十年も勤続している方はいないのよ」

 

 

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