【04-02】
いつの間にか後ろにリンが立っていた。
その両肩に瑞と翔が乗っている。
「ノックしたのじゃが、一向に気付かないのでな」
手にしたお盆にはマグカップがふたつ。
中の日本茶は湯気もなく冷めてしまっている。
ずっと声を掛けるタイミングを探っていたのだろう。
「気にするでない」
颯一の「ごめん」より早くリンが制する。
「こんな時間じゃ。今日はもう休むがよいであろ」
「そう、だね」
力なく微笑む。
「情けない顔をするな。お前は賢い人間じゃ。余では見えぬ物が見える」
「姐さんと比べられても、気休めにもなりやせんぜ」
「至極その通り。姐上はもう少し知恵を使うようにすべきかと」
「ぬかしおるではないか。それなりの覚悟があると思っていいのじゃな?」
「まあまあ、ふたりの言うことも、あながち間違いじゃないから」
「こら、颯一! お前まで言うでないわ!」
他愛ない冗談で少し空気が軽くなった。
「ありがとう、リン。それに瑞と翔も」
「ふん。いつまでも子供じゃな。まったく手間の掛かる」
颯一の素直な言葉がくすぐったい。
つい憎まれ口を叩く。
「煮詰めててもどうにもならないよね。明日、瑞穂さんも交えて考えてみよう」
「理紗の意見も聞きたいところじゃ。あやつは鋭いところがあるしな」
颯一が椅子から腰を上げたのを合図に、解散の雰囲気となった。
リン達が踵を返そうとして止まる。
「颯一よ。何故、『死の九番』は三年毎にひとり殺すのであろうな?」
「見当はついてる。三年と言えば、生徒の在学期間だよね。つまり、どの生徒も『死の九番』を大なり小なり意識することになる」
「そうじゃな。自分が『死の九番』に巻き込まれる可能性もゼロではない。あまり歓迎すべきことではないがの」
「そういう負の感情を糧にする怪異じゃないかなって」
怪談話や都市伝説など。多くの人が気味悪がりながらも語り継がれていく。
そうしている内に嫌悪や恐怖などの負の感情が少しずつ集まり、怪異が生まれる事も多い。
彼らは話が広まるにつれて強力な存在になり、逆に人々から忘れ去れていくと消滅してしまう。
彼らは自己の存在維持の為、語られる通りに人を襲うようになる。
「なるほどの。確かに理に適っておるな」
「待ってくだされ」
普段聞き手に回る事の多い翔が遮った。




