【04-01】
【4】
──九月十八日(水)──
寮の部屋。
簡素なデスクに置かれたノートパソコンの前で、颯一は溜息をついた。
『聖アンドリューズ学院』の寮は贅沢なひとり部屋。
なにせ多感な年代の少女達。プライベート空間は十分な配慮がされている。
「こんなはずないんだけど」
ひとり愚痴ると、大きく背筋を伸ばした。
椅子の背もたれがギギギと声をあげる。
ちらりと腕時計に視線を落とす。
午前三時になろうとしていた。
放課後、颯一は『死の九番』が動くのを待った。
どんな術でも使用時には周囲に影響が出る。言わば術の起こりに当たるものだ。
それを探ろうと試みた。
しかし、颯一の鋭敏な感覚と、緑桜家の強力な探知術を持ってしても、術の発動をおぼろげに知覚するのがやっと。
第一の作戦は空振りに終わった。
学院は特殊な状況下。この結果は想定内だった。
颯一はすぐさま舞に連絡、理紗の安全確保を頼んだ。
リンにも由梨亜を保護するよう支持を出す。
そして自身は事務室に向かった。
目的は事務室内のパソコンで管理されている教職員のデータ三十年分。
放課後の事務室が窓口担当者ひとりであるのは、事前に確認済み。
颯一が短期転入の手続きについて尋ねている間に、瑞と翔が侵入し盗み出した。
「前提が間違っていたということかな」
三十年という期間。
そして事件が『聖アンドリューズ学院』に限られるという点から、『死の九番』が教師である可能性を考えた。
しかし、在籍が三十年を越える教師はいなかった。
唯一の例外は理事長のみ。
彼女は『聖アンドリューズ学院』の卒業生。また三十五歳からの二十年間、教員として勤務していた。
退職後は理事を五年勤め、六年前に理事長に就任し現在に至る。
無論、『死の九番』が経歴を詐称して、潜んでいる可能性も考慮した。
だが、教科担当の教師は、教員免許が必須。
純に頼んで確認してもらったところ、虚偽はなかった。
用務員や事務員などの一般職員も、五年での交代が慣例化しており条件に合致しない。
では、出入り業者はどうか?
彼らも同じく定期的に変更する方針。
最も取引の長い文具屋でも十年ほどの付き合いだ。
「間接的な業者まで、広げてみるべきかな」
そう考えながらも首を振った。
「いや、違う」
学院内に立ち込める邪気がある。
あまり離れた者とは考え難い。
完全に手詰まり。先ほど以上に重い息を吐いた。
「あまり根を詰めるでない。今日はもう眠ったらどうじゃ?」




