【03-29】
颯一の手が淡い光を放ち始めた。
それに照らされると怨霊鬼は苦悶の声を上げて、身体をよじる。
しかし全身を押さえつける圧力の前では、それが精一杯の抵抗だった。
数分が過ぎた頃、怨霊鬼に変化が起こり始めた。
伸びた手足が徐々に縮み、胴体の厚みもほっそりとした物に、獣じみた顔も神経質そうな女性に変わっていく。
結局、十分ほどの時間で元の歩美に戻った。
事なきを得て颯一がふうっと息をつく。
同時に激痛が走った。胸元を押さえて蹲る。
「颯一!」
「心配いらないよ。ちょっと苦しくなっただけだから」
「とにかく早く余を戻すのじゃ。幾分でも負担が軽くなる」
「その力を繋ぎ留める。封呪」
颯一が告げると、落ちていたリボンがふわふわと漂い。
リンの髪に、定位置である首の後ろで巻きついた。
恐ろしい鬼から、小学生然とした童女姿。瞬く間に変化する。
「最近、消耗がより激しくなったのではないか」
「そんなことないよ。ここ数日、休む時間が少ないだけだよ」
弱々しいながらも笑みを作った。
「とりあえず先生をどうにかしないとだけど」
歩美は服の殆ど破けている状態。
このまま保健室に運んだりすると、あらぬ誤解を招くだろう。
「心配するな、余が運んでやる」
全身血みどろのリン。腹の傷も塞がっていない。
これはこれで問題になるのは必然。
「まず瑞穂さんに連絡してみるよ。あっちの様子も心配だし」
「ふん。あやつに心配は無用じゃ。時折珍妙な言動をしよるが、鬼斬りとしての実力は卓越しておる」
意外に高い評価を耳にしつつ、携帯で舞に連絡をつけた。
理紗とふたり、こっちに向かってくれる事になった。
「で、颯一よ。お前の首尾はどうじゃった?」
「うん。上手くいったよ。『死の九番』が動くタイミングを狙ったから、気取られてないはずだしね」
ポケットからSDメモリーカードを出した。
「これさえあれば、『死の九番』が誰かのか特定できるはずだよ」
「ふむ。それは期待できそうじゃな」
「おっと、それが手に入ったのは、あっしの瞬間移動があったからでやんすよ」
先ほどのダメージから復帰した瑞が、偉そうに顎を上げる。
「いつもただ飯食っておるのじゃ。たまに働いたからとて、偉そうな口を叩くでない」
瑞の鼻先を、またも指先で弾く。
「ぐぎゃぁ!」
瑞が肩からずり落ちて、顔を押さえながら地面を転がる。
「リン! だから酷いことしなでってば!」
「やはり沈黙は美徳なりというところだな」
白い玉のまま、ずっと黙っていた翔がぼそりと呟いた。




