【03-27】
「緑桜流鬼爪牙!」
突如飛来した白黒の玉が、怨霊鬼の背中を深々と抉った。
怨霊鬼が不意打ちに呻きながら振り返る。
数メートル先に立つ颯一を視界に捉えると、リンから手を引き抜いて地面に捨てた。
颯一と怨霊鬼が対峙する。
「リン! 待ってて! 直ぐ行くから!」
「来るな! こやつの体液は毒。人間が吸い込んだら終わりじゃ」
颯一が僅かに身を引いた。咄嗟に口元を手で覆う。
「余を開放するには遠いか」
リンが呟く。
颯一の解呪の及ぶ範囲は約半径二メートル。
怨霊鬼を挟む形になっている今、少し距離がある。
「待っておれ。余がそこまで行く」
立ち上がるが、ふらふらと膝を付いてしまう。
毒によるダメージに加え、内蔵をかなり破損した。
鬼の生命力を持ってしても、回復に数十分は必要だろう。
「えぇい。なんと貧弱な身体じゃ」
怨霊鬼が颯一に踏み出した。
背後のリンを警戒しているのだろう。じりじりと慎重だ。
颯一に焦りが浮かぶ。
怨霊鬼と真っ向勝負はできない。だが、リンに近付かなければ解呪もできない。
ぐっと拳を握って覚悟を決めた。
「瑞!」
「はいな! 兄さん!」
黒い玉がダークブルーの小鬼に戻り、颯一の肩に降りる。
颯一は息を止めると駆け出した。
微塵の迷いもなく突っ込んでくる颯一を、怨霊鬼の鋭い右爪が薙ぎ払う。
颯一が身体を沈める。
触れるだけで致命傷となる攻撃をすれすれで掻い潜った。
続いて怨霊鬼が左手を振るう。
初撃を避けた直後、体勢が崩れたところを狙ったのだ。
その攻撃が触れる寸前で、颯一の身体が掻き消えた。
直後、数十センチ前に現れる。
渾身の一撃が空振りし、怨霊鬼はバランスを崩して無様にたたらを踏んだ。
「ひひひ。なかなかいい格好でやんすよ」
颯一の肩の上で、瑞が手を叩いて嘲笑する。
瑞は物体を瞬間移動させる能力がある。
最大で人ひとりを、三十センチ弱の距離動かす事が可能。
呪力を練る必要があるため数分に一度しかできないが、こういう場面では実に使える。
怨霊鬼が追撃に移る前に、颯一はリンに近付く。
解呪の射程に入った。
辺りには毒が充満。
まだ肺に残っている空気で言葉を紡いだ。
「繋がれし力を開放する! 解呪!」
エンジのリボンが解けた。
リンの姿が変わる。
広がりながら茜に変色していく髪と、人外の輝きを宿す銀の猫眼。
額には黒い角が突き出し、肉食獣の如き犬歯を覗かせる。




