【03-26】
どす黒い液体が床に落ち、金属をすり合わせたような不快な声が上がった。
手裏剣で敵の位置を把握した舞が短刀を抜く。
青味掛かった刀身が、夕日に浮かぶ。
降魔刀『断ち風』だ。
空中で回転、遠心力を乗せて斬り割いた。
凄まじい勢いで黒い液が噴き出し、舞に降り掛かる。
舞はくるりと身体を捻り、足から静かに着地。
続いてどすんと床に重い何かが落ちた。
ふうっと呼気を吐いた舞が途端に顔をしかめる。
「なにこの臭い。もう、最悪」
顔や手に付いた液体を拭うが、服にべったりとついた分はどうにもならない。
「終わったの?」
理紗が駆け寄って来た。
口元にハンカチを当て、教室中に充満する悪臭を堪えている。
いつの間にか陽菜達も倒れていた。ぐったりとして動く気配はない。
「まあね。こいつが犯人よ」
舞の言葉に視線を向けた理紗が息を飲んだ。
体長一メートルはあろうかというクモが転がっていた。
体は赤と黄色のまだら模様。猿に近い獣じみた頭が付いている。
「なに。この化け物」
「土蜘蛛の一種だと思うわ」
「ツチグモ?」
「日本古来の怪異。まあ有体に言えば妖怪とかそんな感じのやつ」
「妖怪なんて、そんな。あ!」
土蜘蛛がぶくぶくと音を立てて溶け始めた。
数秒で異臭を放つ液溜まりに変わる。
「なに、これ。どういうことなの?」
理紗は呆然と呟くしかない。
ここ数日、自身の常識を越えた事態を目にし過ぎている。
「ひょっとして『死の九番』が、さっきの化け物ってわけ?」
「ん。それは」
舞が言葉を揺らす。
その判断は颯一にしてもらいたいところだ。
「とにかく今日のところは、帰った方がいいと思うわ」
「あ、うん。そうね」
頷いた理紗だったが。
「でも、その前にこの子達を保健室に連れて行かないと」
「その前にジャージに着替えさせて。この臭い最低だわ」
露骨に眉をひそめる舞。
普段の真面目で八方美人な彼女と違う、親しみやすい表情に理紗が口元を緩めた。
「髪型も戻した方がいいわ。ちょっと前衛的過ぎよね。それ」
※ ※ ※
怨霊鬼が更に力を込めた。
長い爪の先がリンの背中から突き出る。




