【03-25】
リンが左足を軸に素早く回転。
十分に加速を付けたハイキック。
横面を蹴り抜かれ、今度は校舎に打ち付けられた。
苦しそうに呻きながら、吐しゃ物を撒き散らす。
「汚らしい奴じゃのう」
心底不快そうに眉をひそめながら、リンが歩を詰める。
怨霊鬼は伏したまま、地面すれすれの蹴りで足元を払う。
リンは小さな水溜りを越える程度のジャンプでそれをかわした。
「期待外れじゃな。ま、クズの鬼に過剰な期待であったか」
着地と同時に拳を握る。
そのまま頭部を打ち、昏倒させるつもりだった。
しかし。
「む、なんじゃ」
視界が不意に歪んだ。
全身から力が抜け、ふらふらと膝を付いてしまう。
怨霊鬼が身体を起した。
口から暗緑色の体液を垂らしながら、すぐ前でうずくまるリンに腕を振り下ろす。
地面に叩きつけられ、無様に這い蹲るリン。
朦朧とする意識の中で気付いた。
周囲の雑草が萎れていた。いや、既に枯れてしまったものまである。
雑草達の異常は霊鬼が撒き散らした体液が中心だ。
「毒か。迂闊じゃった」
憎々しげにリンが呟く。油断があったのは否めない。
怨霊鬼がリンの頭を掴んで持ち上げた。
先ほどの仕返しとばかりに壁に叩きつける。何度も何度も。
ごつごつと鈍い音が鳴る度に、コンクリートが赤く染まっていく。
痛みに歯を食いしばりながらも、怨霊鬼を振り解こうとするリンだったが、痺れて力が出ない。
不意に怨霊鬼の手が止まる。
リンの身体を自分の正面に向けると、空いていた左手を腹部に突き込んだ。
鋭い爪が皮と肉を突き破り、容赦なく内臓まで達する。
「そ、颯一。早く、来てくれ」
呻きと共に粘り気のある血が口から溢れる。
まさに絶体絶命の状況だ。
※ ※ ※
黒板消しが空中。ちょうど、陽菜の頭上で弾けた。
舞の手裏剣が射抜いたのだ。
まるで爆煙の如く広がるチョークの粉が描き出した。陽菜とソフトボール部員達の身体からキラキラと光る糸状の物。
それらが伸びているのはドア、教室の前にある方の上辺りだ。
理紗が視認した時には既に、舞は動いていた。
十本の手裏剣を次々に投げながら、近くの机を足場に跳躍。
半分の手裏剣は天井に、残った半分が空中で止まった。
いや、何か見えない物に刺さったのだ。




