【03-22】
舞に焦燥が浮かぶ。
六人が次々に投げてきたら、理紗を守りながらでは凌ぎきれない。
舞の思案を断ち切るように、机や椅子が飛んだ。
素早いステップでふたつの机を回避。
身体を捻ってひとつをやり過ごす。
その回転を利用し、迫る椅子をあさっての方向に蹴り飛ばした。
だが、最後は防げなかった。
右の脇腹にぶち当たる。
短い呼気を漏らしながら、たたらを踏みつつもなんとか堪える舞。
「まずい」
想定以上の威力だった。
肋骨にヒビが入った。全身に嫌な汗が浮かぶ。
絶体絶命だ。
舞の後方、窓にへばりついて立つ理紗も危機的状態である事を感じていた。
恐怖心を抑えつつ、懸命に思考を巡らせる。
陽菜達の動作は不自然。
そこに打開策が、少なくともヒントがあるのではと、再び近くの机を引き寄せる動きに注視する。
「ん?」
理紗が思わず漏らす。
窓から差し込む光が一瞬だが、陽菜の頭上で何かに反射した。
まさかと思うよりも早く理紗は駆け出す。
向かうは教室の前。黒板だ。
「危ない! 頭!」
舞の悲鳴に近い警告に、素早く身体を屈める。
数センチ上を椅子が飛んでいった。
目を閉じてしゃがみ込みたくなる。
その恐怖を押し込んで、数歩の距離を縮めた。
黒板に手をついて勢いを殺すと、備え付けられたふたつの黒板消しを掴んで振り返る。
陽菜は緩慢な動きで次の机を持ち上げようとしていた。
そこに向かって、黒板消しを投げつける。
焦りのせいか狙いが逸れた。
ふたつとも陽菜の頭上を通り過ぎるコース。
しかも期待していたより、チョークの粉が散らない。
完全な失敗だ。
※ ※ ※
同時刻。北校舎の裏。
この時間は日も殆ど届かない。
薄暗さが湿っぽい空気と、雑草の匂いをより強く意識させる。
近付いてくる足音に生駒 由梨亜は振り返った。
「あ、先生」
吾妻 歩美に軽く頭を下げた。
苦手な相手。どうしても表情が硬くなる。
「あの、お姉ちゃんのことで話って?」
尋ねる由梨亜に対し、歩美は何の反応もなし。
黙々と距離を詰めてくる。
「先生?」
只ならない雰囲気に、由梨亜が無意識に数歩下がった。
「全部、あなたの仕業だったのね」
唐突にそう告げると、敵意のこもった瞳で睨みつける。




