【03-21】
ふうっと少女が息を吐いたところで、理紗の意識が現実に追いついた。
少女は奇妙な格好だった。
長い髪を頭頂部で不恰好に縛り、口には白マスク。
大きなサングラスで目元を隠している。
「これは一体、どういうこと?」
まだ震えが残る声で理紗が尋ねた。
それに対し少女は無言で首を横に振る。
話すつもりはないとの意思表示だ。
「瑞穂、説明して」
びくんと少女の肩が跳ねる。
いきなり名指しされた事に驚いたようだ。
「クラスメイトなんだし、背格好見れば解るわよ」
近くの机をテコに身体を持ち上げながら、端的に説明した。
それを聞いた少女は観念してマスクとサングラスを取る。
クラス委員である舞だった。
「放送を聞いて、もしやと思ったの。で、先回りして潜んでたわけ」
「潜んでいたって」
理紗が割れた窓を見やる。
「屋上にね。不穏な空気を感じたから、ワイヤー使って下りて来たの」
話を聞きながら理紗が仮定を立てる。
ただの女子高生にそんな真似ができるはずない。
「ひょっとして、あの姉妹と同じ?」
「うん。今は協力して『死の九番』を追ってるの」
「じゃあ、仲間ってわけね」
舞の表情が微かに曇る。
正直、舞は理紗に対し良い印象を持っていない。
立場はともかく、心情的には肯定し辛いところだ。
「ま、とにかく助けてくれてありがと。マジでどうなるかと思ったわ」
舞の反応を気にせず、さらりと礼を述べる。
「これも『死の九番』ってやつの仕業ってことね。私は隈野やソフト部に恨まれてる。だからって、こんなことする子達じゃないし……」
「待って!」
突然、舞が理紗の手を掴んで引き寄せる。
身体の位置を入れ替え、後ろに置いた。
陽菜がのっそりと立ち上がりつつあった。
ふらふらと頭を揺らし、まるで出来の悪いマリオネットの動きだ。
「下がって」
理紗が数歩離れるのを背中で感じると、軽く腰を落し臨戦態勢に入る。
陽菜の動作は、さっきより遥かに不自然。何かに操られているのは明白だ。
しかし、探知系の術に疎い舞が頼れるのは自分の目だけ。
慌しく視線を走らせてはみるが。
陽菜が近くの机を掴んだ。
軽々と抱え上げ、投げつける。
舞が咄嗟に身体を沈めてかわした。
速度があると言っても所詮は机。卓越した運動能力を持つ舞であれば、避けるのは難しくない。
しかし。
陽菜が次の机を持つ。
他のソフトボール部員も起きると、机や椅子を手にする。




