【03-20】
自身の常識と掛け離れた展開に、ただ呆然とする理紗。
そんな彼女に陽菜が虚ろな瞳を向ける。
「お前のせいだ。お前が全部めちゃくちゃにしたんだ」
「ちょ、ちょっと待って。私は……」
「お前が全部悪いんだ! お前みたいなやつ! 死ねばいいんだよ!」
バットが再び机を弾き飛ばす。
机の中の教科書やノートを撒き散らしながら、理紗を掠めていく。
理紗は甲高い悲鳴を上げて逃げ出した。
陽菜の入ってきた方とは逆、教卓側の出口に。
懸命に伸ばした手がドアに触れる。
寸前で。
外側から開いた。
「た、助け……」
出かけた言葉が凍りつく。
そこに立っていたのは、ソフトボール部のユニフォームを着た少女五人。
陽菜と同じ生気のない目をして、やはり金属バットを持っている。
理紗が慌てて後ろに飛び退いた。
その前髪をバットが撫でる。
空振りしたバットは壁にぶつかり、大きな亀裂が走った。
もし当たっていたら、間違いなく理紗の頭は潰れていただろう。
「ひっ!」
腰が抜けた。
無様に尻餅をついた状態で、なんとか手だけで後ろに下がる。
そんな理紗にソフトボール部の少女達が、じわじわ距離を詰めてくる。
「止めて、止めてよ。私は、私はただ真実を……」
背中に何かが触れた。
慌てて振り返る。陽菜だ。
「お願いだから、助けて」
懸命に訴える理紗に対し、陽菜はゆっくりとバットを上げた。
理紗は目を閉じ、腕で頭を庇う。
無駄だと解りつつも、自分のできる精一杯だ。
突如、ガラスが割れた。
その音に理紗がはっと目を向ける。
ドアとは反対側、敷地の外に面した窓を打ち破って、制服姿の少女が飛び込んできた。
少女は器用に空中で身体を回転させながら、手裏剣を放つ。
全部で六本。
次々とバットのグリップに命中する。
バットが弾かれ、がらがらと転がった。
スカートをはためかせながら着地した少女は、即座に陽菜の後ろに回り込んだ。
陽菜が反応するより早く、左の掌で首筋を打つ。
陽菜が頭を垂れ、へたり込んだ。
すぐさま少女は次の標的に肉薄する。
近い場所に立っていたユニフォームの少女。
間合いに入ると同時に、手刀が顎の下を掠める。
と、すぐさま反転、三人目を狙う。
数秒で六人全員が床に倒れた。
急所にピンポイント。しかも十二分に加減してある。大きな外傷もない。




