【03-18】
「理紗はとっつき難い人間じゃが、話してみると意外と好感が持てる。お前や陽菜が、ここまで毛嫌いする理由が解らん」
「リン、人には相性ってのがあるんだよ。だから」
「違うのよ。年明けにトラブルがあったの。校内新聞の記事でね」
去年の女子ソフトボール部は県下有数の強さだった。
ふたりの二年生。脅威の長打力を誇るスラッガーと、多彩な変化球を誇るエース。
攻守の二枚看板があったからだ。
「三月末の全国大会に出られるかもって盛り上がってたの。でもね、このふたり、寮生だったんだけど。ちょっとした噂があったの。時々、彼氏を部屋に招いているって」
寮は男子禁制。もし本当なら問題になる。
「実際ね。そういうことしてる子って、ちょこちょこいるみたいなんだけど。校内の有名人となると、みんなの関心も高くてね。理紗が校内新聞の記事にしちゃったの」
「噂はホントだったんだね」
「そこが微妙なの。明確な証拠ははなくて、ぼやかしている感じだった」
「理紗の性分を考えると、証拠は掴んでおったのであろうな。ただ、それを開示すると問題が大きくなると踏んだのであろ。理紗らしい落としどころじゃ」
「でも、ふたりは退部処分になっちゃって。で、全国大会はおろか、地区予選の初戦で敗退したってわけ」
「なかなか辛い話だね」
「問題はここから。実はそのスラッガーの子のポジションがセカンド。陽菜と同じだったの。でね、一年でベンチ入りしていた陽菜が、先輩を追い出す為に仕組んだことだ。って言う話が広がって」
「下らん! あやつがそんな人間ではないのは一目瞭然であろうが!」
声を荒げるリン。
「一年でベンチ入りって、妬まれるのよ。で、矛先が集まったってわけ。嫌がらせも酷かったの。陽菜も参っちゃってね。かなり危ないところまでいったんだ」
「そんなことがあったんだね」
「全ての元凶は校内新聞で、記事を書いた理紗のせい。そう思わないとやってられないの。陽菜も筋違いだって解っているんだけど」
「しかし、よく立ち直れたもんじゃな」
リンの疑問は的を射ていた。
今の陽菜は明るい部分が勝っている。
「音羽先生のお陰なの。あの先生ね、生徒達の話を聞くカウンセリングもしてるの」
「ん? ではひょっとして今日の用事というのは?」
「そう。チャペルに行ってるのよ。まだ、時々話を聞いてもらっているの」
「ほほう。色々と生徒に尽くしておるのだな」
「宗教の先生って何をするのかなって思ってたんだけど、あれこれ忙しいんだね」
「今日の記事を読んで、『死の九番』に対して不安を訴える子も増えるだろうし。しばらくは大変なことになるんじゃないかな。ん?」
ポケットのスマートフォンを取り出した。メールだ。




