【03-15】
「こんなの読んでるとバカが移るよ」
颯一達にそう残すと、踵を返してゴミ箱に。
「ふむ。かなり嫌っておるようじゃな」
「隈野さんらしくないくらいだね」
「色々とあったんですよ。かなり吹っ切れてはきているんですけど」
舞が振り返ったところで、始業のチャイムが鳴った。
※ ※ ※
「なにが『死の九番』よ! バカバカしい!」
破った校内新聞をゴミ箱に押し込む。
颯一達のクラス担任である吾妻 歩美は不快感を露にしていた。
始業チャイムの直後。
普段なら慌しいながらも、和気藹々としている職員室が、彼女の発言で怒鳴り声を機に静まり返ってしまった。
「こんな記事を書くなんて、厳しく指導する必要があるわね」
周囲を気にする様子もなく、更なる忌々しさを滲ませる。
触らぬ神に祟りなし。
同僚達は、できる限り気配を薄めてホームルームに向かう。
三十名以上はいた教師達が、あっという間に数名に減った。
残った面々も歩美の方を見ないよう、露骨に目を逸らしている。
そんな中、彼女の後ろにひとりが進み出た。
「あの、吾妻先生。そろそろホームルームに向かわれた方が」
誰もが安心する穏やかな口調で告げる。
「言われなくても解っています!」
語気を荒げながら、歩美が振り返った。
「吾妻先生、そんな怖い顔しないでください。生徒達が心配するじゃありませんか」
透き通るような声で、やんわりと嗜める。
黒を基調とした修道服の女性。
職員室では滅多に見かけないシスターの音羽 明星だった。
「私も今日の校内新聞は拝見させて頂きました。不安を煽るような記事で、関心できる内容ではないと思います。吾妻先生のような生徒想いの先生であれば、彼女達に与える影響を鑑みてしまうのは解ります」
「音羽先生」
「でも生徒達が、一生懸命に作った新聞です。頭ごなしに叱ることなく、彼女達の言葉にも耳を傾けてあげてください。きっと彼女達の中にも大きな不安があるのです」
優しく微笑む明星につられて、歩美の顔から険しさが引いていく。
「少し冷静さを欠いていました。音羽先生の仰る通り。生徒達の気持ちを第一に考えるべきでした」
「偉そうに言ってみましたが、実は全部受け売りなんです。常に生徒を一番に考える。普段、吾妻先生が言っておられますよね。それを聞いていて、いつかどこかで使おうと狙っていたんです。虎視眈々と」
上手いとは言えない冗談。
その中にある気遣いを感じ、歩美は頬を緩めた。
ふうっと小さく息を吐くと、心情を吐露する。




