【03-10】
「少し気になってたんだけど。なんか話し方が回りくどくない?」
的の中心を見事に射抜いたひと言に、思わずリンが笑みをこぼした。
「その通りじゃ。こやつは持って回った言い方をしおる。特に策を巡らせておる時にはな。人より機転が聞くところを、遠まわしに自慢したいのじゃ」
「そんなことないってば、これ以上変なキャラを付加しないでよ」
「そうよね。女装趣味ってだけでも、かなりアレな感じだものね」
悪ノリする舞に、颯一は「だから、趣味じゃないってば」と苦笑をひとつ。
「まあ、余談はともかく続きじゃ。さっさと説明せい」
「はいはい。じゃあ、話を戻すね。僕達が足柄さんから接触したことで、『死の九番』はふたつの可能性を考える。僕達が新聞部からカードの情報を得たのか。カードのことを知って新聞部に協力を依頼したのか」
「普通なら前者の方が、説得力があると思うわね」
「そうなると『死の九番』が健在だということになって、当初の目論みは崩れる」
「だからって動く? 様子を見るんじゃない?」
「そうなると睨み合いなるだけじゃ。颯一よ、その先の手があるのか?」
問うリン。
舞も期待を込めた眼差しで颯一の言葉を待つ。
やや間を置いて、颯一は細い肩を軽く竦めた。
「実のところ、何も考えてないんだ」
予想と余りに掛け離れた返答に、舞がぽかんと口を開けた。
リンはこういう遣り取りに慣れているのか。
顔色を変えず、ポテトを口に運んでいる。
なんとも言えない微妙な空気の中。
リンの咀嚼する音だけが数秒間続いた。
ふうっと颯一が嘆息。重い沈黙を破る。
「ごめん。とりあえずは敵の出方を待とうって言ったつもりだったんだけど」
「ふん。余にはそう聞こえんかったがな」
「大丈夫よ。私はそう理解できたから。そうよね。ここは待つべきだわ。ほら、鷙鳥の撃ちて毀折に至るは、節なり。って言うでしょ」
「ん? しちょうがなんじゃと?」
「鷙鳥の撃ちて毀折に至るは、節なり。孫子よ。猛鳥が獲物を一撃で倒すのは、タイミング良く力を集中させるから。何事もタイミングが大事ってこと」
「最初からそう言えば良いであろ。訳の解らん言葉を使う必要なぞあるまいに」
「いいでしょ。好きなんだから」
「まあまあ。ふたり共」
じゃれ合い始めたリン達に颯一が割って入った。




