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【03-07】

「でも、その、ただのイタズラかもしれないし」

「確かに今の段階では、変に騒ぎ過ぎるのはどうかって気もするね」

「そうなんです。だから、警察には言わない方がいいかなって。あの、両親もイタズラだろうって言ってたし。それに、その、言っても信じてもらえないかも知れないし」

 

 今までの控え目な口調とは打って変わり、随分と焦った喋り方になる。

 

「ところで、そのトランプを見せてもらえるかな?」

「はい。持ってきてますから」

 

 安堵の表情を浮かべつつ、由梨亜が鞄からトランプを出した。

 どこにでも見かけるプラスチック製のカードで、ハートの四。

 右下に手書きの小さな黒字で、十月一日と記されている。

 

「これがそのカードなんだね」

 

 神妙そうに告げる颯一の隣で、リンがつい「存外にちゃちこいのぉ」と漏らす。

 

 リンの呟きは幸いにも由梨亜の耳に届かなかった。

 不安気な面持ちでふたりの反応を待っている。

 

 颯一はカードを見ながらじっくりと間を置く。

 

 沈黙に耐え切れなくなった由梨亜が、おずおずと声を掛けようと口を開いた矢先。

 

「生駒さん、このカードは偽物だよね」

 

 由梨亜の細い肩が跳ねた。頬からは血の気が失せる。

 何か反論をと思うが、微かに唇を振るわせるだけで言葉にならない。

 

「『死の九番』から届いたというのはウソ。これは自分で作った。間違いないよね?」

「ど、どうしてそんなことが解るんですか?」

 

 なんとかそれだけ返せた。

 

「新聞部には『死の九番』から届いたカードの写真が残されてるんだ。カードに記されている日付は黒ではなく、スートと同じ赤いインクで書かれている」

「そんなのウソです!」

 

 反射的に立ち上がる。

 

「黒です! 間違いありません! だって!」

「だって、お姉さんが持っていたカードを見せてもらったから、だよね」

 

 機先を制される形になって、由梨亜は続きを飲み込んだ。

 

「ごめん。実のところ、インクの色なんてどうでもいいだよ。赤でも黒でも構わない」

「どういう意味ですか?」

 

 当惑を深める由梨亜に颯一が続ける。

 

「カードを受け取った人は、僕の指摘が合っていようが間違っていようが気にはならないはずだよ。だって、そのカードが送られてきたんだから。気にするのはカードを作った方。本物通りに作った物が、間違った理由で偽物って断定されたら」

 

 そこまで説明されて合点がいった。

 由梨亜が椅子に腰を戻し、うな垂れる。

 

 

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