【03-05】
「まず、カードを受け取った人を教えて欲しい。その子にも協力をお願いするつもりなんだ。そして協力が得られたら」
「それから記事にすればいいのね。うん。それなら筋も通ってる」
納得する理紗とは対照的に颯一の表情が曇る。
「どうしたの?」
「やっぱり先に言っておいた方がいいよね。その子はおそらく……」
「解ってる。だから記事にしなかったの」
意外な言葉に颯一は続きを飲み込んだ。
「私はジャーナリスト志望なの。ジャーナリストの使命は真実を伝えること。たとえつまらない校内新聞の記事でも、そこは変わらないと思ってる。だから、私は自分が真実と納得できる物しか記事にしない。それが絶対のルール」
「じゃあ、今回はそのルールを破らせることになるんだよね」
「まさか。このルールは絶対よ。どんなことがあっても破らない」
そう断言して、理紗は胸を張る。
「まあ、見てて。ちゃんとした記事を書いてみせるから」
「なんか心強いね」
「期待してもらっていいわよ。ま、それは協力が得られてからの話だけど」
「うん。それはなんとかしてみるよ」
「その子ね。ちょっと待って」
スマートフォンの上で指が踊る。
「あった。一年の生駒 由梨亜って子よ」
「ちょっと待って。生駒って」
「そう。三年前、『死の九番』事件で死んだ生駒 真理奈の妹よ」
※ ※ ※
──九月十七日(水)──
生駒 由梨亜。
彼女をひと言で表現するなら地味という単語が、もっともしっくりくる。
肩上までの髪は天然の黒。
あっさりとした顔立ちは明るいメイクで映えそうだが、いつも淡い色付きのリップクリームのみ。
甚だもったいない感じがする。
放課後、帰り支度を整えながら、由梨亜は小さく息をついた。どうにも気が晴れない。
理由は昨夜遅くにあった電話。新聞部の知り合いからで、取材のキャンセルを告げられた。
『死の九番』から届いたトランプについて、記事にしてもらうつもりだったのに。
計画は最初の最初で頓挫した。
もう一度プランを練り直さなければならない。
いつもより重く感じられる鞄を提げて、教室を出る。
そこで。
「あの、生駒 由梨亜さんかな?」
後ろからの声に振り返った。




