【02-24】
「そもそも昨日の化け物、とりあえず黒マントって呼ぶけど。なんだったんだろう?」
「敵じゃ」
簡潔に答えると、リンはハンバーガーに齧りつく。
大口で容赦なく。
周囲を微塵も気にしない立ち振る舞いは、ある種の爽やかさすら感じさせる。
「確かに敵なんだけど」
食事に集中し始めたリンに苦笑しつつも、「瑞穂さんはどうかな?」と話を振った。
「そうね。私が仕掛けた二回の戦いだと破壊した物、教室とかが修復されていた。でも昨日は修復されなかった。乱暴な推測だけど、修復してたのは黒マントだったのかも」
「仮面の裏にあったトランプはどう思う?」
「ハートの九だったわね。単純に答えると『死の九番』を連想するわ」
「じゃあ、黒マントが『死の九番』。捜査の手が入るのを恐れて、僕達の戦いの痕跡を消していた。昨日は邪魔者な僕達を始末する為に現れたってところかな」
「バラバラに行動するところを狙ってね」
ハンバーガーを控え目にひと口。
ちゃんと飲み込んでから続ける。
「繋げるとそうなるけど。実際、どうかなって感じね。都合が良すぎるでしょ」
「ありえんな。あやつからは知性を感じんかった。こんな手の込んだ真似ができるとは思えん」
斬り捨てたのはリン。
あっという間にハンバーガーを食べ終え、ソースの付いた指先を舐めながらだ。
「僕もふたりと同じ意見だよ。三十年、十人も殺害してきた狡猾な相手が、こんなに簡単に片付けられるはずがない。リン、もう一個食べてもいいよ」
「む。しかし……」
「数百円のハンバーガーくらいで、家計に影響はないから」
「をを、そうか。では次はこの二段重ねのヤツを食べてみるのじゃ」
ぱっと立ち上がると、注文カウンターに向かう。
「どう見てもただの小学生よね」
「本人には言わないでよ。機嫌が悪くなるから」
小柄な後ろ姿を見ていると、ついふたりして表情を緩めてしまう。
「正直なこと言うとね」
微かに下がったトーンに気付き、颯一は視線を舞に移した。
「私、『鬼遣い』って嫌いだった。だって戦うのは鬼だけでしょ。鬼が可愛そうとかそういうのじゃないのよ。薄汚い化け物だと思ってたし。ただ、自分達は後ろに隠れてるだけなんて、なんとなく許せなかったの」
「そう思われても仕方ないよ」
「でも、誤解してたかなって。ふたりを見てると、本当の兄妹みたいに思えるし」




