【02-23】
ふうっと大きな溜息をひとつ。
舞は制服姿。
服や小物を引っ張り出して悩んだ挙句、行き着いた結論だ。
舞の持ち物と言えば、動きやすさのみを重視した地味な服に、機能性だけを考えた無愛想なバッグ。護身武器を仕込んだアクセサリー。
どれも気になる男子と出かけるのに似つかわしくない。
今から買うのも時間的に無理。
結局、無難な制服になった。
「善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為し、以て敵の勝つ可きを待つ。可愛い服のひとつくらい準備しておくんだったな」
負けない体勢を整えた上でチャンスを待つのが常套。これも孫子だ。
恋愛を夢見ながら、この事態を想定していなかったのは迂闊としか言えない。
「瑞穂さん」
いきなり声を掛けられ、慌てて首を向ける。
直ぐ近くに、颯一が立っていた。
「え?」
手にしたスマートフォンと颯一の間で、何度も視線を往復させた。
待ち合わせの時間まで十五分以上はある。
「ごめん。考え込んでいるみたいだったから、声を掛けようか迷ったんだけど」
「あ、ううん。大丈夫。大丈夫よ、大丈夫。うん。全然大丈夫」
どう反応するべきか解らず、大丈夫をやたらリピートしてしまう。
「どうにも大丈夫に見えんがな」
颯一の隣でリンが呆れ顔になっていた。
ふたりも制服姿。もちろん颯一は絶賛女装中。
「し、失礼ね。どういう意味よ」
「そうだよ。瑞穂さんも昨日のことをあれこれ考えてるんだから」
「え? ええ、そう。もちろんよ」
「ふうん。随分と緩みきった顔をしておったがな。まあいい。それよりもだ」
リンが目を細めた。普段の彼女とは掛け離れた真面目な様子だ。
「余は腹が減った。早く飯にしようではないか」
「リン、あのね」
「いいんじゃない。ここで立ち話してるのもなんだし」
舞があっさり承諾したので、近くのハンバーガーショップに移動した。
本格派をウリにしたチェーン店で、ジューシーなパティと濃厚なソースが人気である。
店内は三十人くらいが入れる造りだった。
それぞれセットメニューを注文し、入り口から一番遠い席に座る。
こんな時間に制服の少女三人と言う組み合わせだったが、特に不審がられはしなかった。
「昨日のことで気になる点が幾つかあるんだ」
颯一が切り出すと、舞が頷いて続きを促す。
歳相応の愛らしさは陰を潜め、鬼斬りとしての鋭さが表れている。




