【02-21】
「無視か。ふん。面白みに欠けるゴミじゃな」
細い足を伸ばし、近くの椅子を引き寄せる。
そのまま黒マントの方に蹴り飛ばした。
有り得ないほどの速度で激突。貫通して壁にぶち当たる。
だが、黒マントは応えない。
何事もなかったように空中を漂っている。
「む。実体がないか。面倒なヤツじゃな」
瞬時に特性を見抜き毒づく。
「颯一、余を開放するのじゃ。このままでは戦えん」
「うん。解った」
痛む胸を押さえながら、なんとか立ち上がる。
「繋がれし力を開放する! 解呪!」
リンのリボンがはらりと落ちた。幼女然とした姿が変わる。
銀色の猫眼と、額の黒角。赤味の増した髪を振り乱し、長く伸びた犬歯を覗かせる。
恐ろしい鬼、そのものだ。
黒マントが空気弾を撃った。
リンの足元、床がガクンと揺れる。
「団扇であおぐよりは、いささか涼しいと言うくらいじゃな」
鋼を越える硬度を持つリンには全くダメージにならない。
だが黒マントは怯まなかった。
ふわふわと空中を移動しながら、リンに攻撃を続ける。
「ふん。下らんやつじゃな。もういい」
黒マントに向かい右手を伸ばす。手の平を向けて、物を掴む動き。
当然だが、黒マントに届くはずがない。
ふよふよと浮かんでいた黒マントが突然止まった。
頭だけが忙しなく動く。
まるで見えない何かに捕縛され、もがいているように見える。
「終わりじゃ」
右手を握った。と、黒マントが空中で圧縮されて潰れる。
胴体の黒マントは消滅。
唯一残った白い仮面が乾いた音と共に床に落ちる。
「瑞穂さん! 大丈夫?」
舞を助け起す颯一の声を後ろに聞きつつ、リンは転がった仮面を拾い上げた。
「む」
思わず声が漏れる。
仮面の裏側にはトランプのカードが一枚。
「ハートの九じゃな」
※ ※ ※
──九月十二日(木)──
「そうなの。今日と明日は休校になったわ。警察も入っているらしいの」
午前七時前。
いつもなら登校の支度に追われている時間のはず。
舞は愛用のスマートフォンを片手に、寝間着代わりのジャージ姿だった。




