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【02-20】

 両手を大きく払う。

 その動きに応えて白黒の玉が宙を舞った。

 黒マントを中心にくるくると円を描く。

 

「緑桜流鬼砕咆哮!(きさいほうこう)」

 

 白黒の玉が低い音を放つ。

 

 いきなり黒マントの身体が震えた。

 あちこちが捩れ、歪み、崩れていく。

 

 鬼の咆哮には強い呪力がある。

 従五位より上位の鬼であれば、その声だけで人や動物に死をもたらす事もできる。

 

『鬼遣い』達がその力を利用しないはずがない。

 鬼砕咆哮は鬼の吠え声を呪力で反響強化、一定範囲の空間を捻り歪める術である。

 空間に直接影響を与えるため、実体を持たない怪異にも有効な術。

 緑桜家では中級攻術にあたり、修得には相応の術力と数ヶ月の期間が必要とされている。

 

 颯一の場合、起点となる瑞と翔が最低位階の従八位であるため威力は著しく劣る。

 それでも、颯一の持つ術では最高の攻術だ。

 

 崩れる黒マント。

 ボロボロになった状態では、空気を撃ち出す事もできないのだろう。

 あと数十秒で完全に破壊できる。

 勝利を確信した颯一だったが。

 

「ぐぅっ」

 

 胸が痛んだ。肋骨を絞られるみたいな痛み。

 足から力が抜け、無様に膝をついてしまう。

 呼吸すらままならない。

 

「もう、少しなのに……」

 

 半ば祈るように呟くが、現実は無常だった。

 

「リン、来て」

 

 黒マントの崩れた身体は徐々に復元しつつあった。

 胴体がぞわっと波打つ。

 不可視の攻撃が白黒の玉を弾き落とす。


 次はお前の番だとばかりに、黒マントが颯一の方に身体を向ける。

 

 颯一は硬く目を閉じるしかできなかった。

 しかし。

 

 数秒が経過。恐る恐る颯一が目を開ける。

 頭上に黒マントが浮かんでいた。

 

 どうして攻撃してこないのか。準備は完了しているはずなのに。

 真意が図りきれない。

 

「颯一!」

 

 甲高い声と共に、リンが教室に飛び込んできた。

 

 途端に黒マントが反転、リンに対し一撃を放つ。

 

 出会い頭の攻撃。

 小さな身体が後ろに跳ね、凄まじい勢いで廊下に叩きつけられた。

 

「リン!」

「ふん。心配無用じゃ。この程度はなんともない」

 

 身体を起こし、教室内まで進む。

 

「随分と無粋なマネをしよるの。それなりの覚悟はあると思っていいんじゃな?」

 

 口の端に滲んだ血を手の甲で拭うと、にぃっと不敵な笑みを浮かべる。

 

 対する黒マントは無言。

 次の攻撃準備に身体を揺らすだけだ。

 

 



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