【01-05】
「解った解った。常磐 凛子です。一ヶ月という限られた期間になりますが、よろしくお願いします」
くねくねと身体を過剰に揺らしながら、深々と礼をする。
そのコミカルな動きに、幾人かの生徒が口元を押さえて肩を震わせる。
明らかに先程よりも多い。
「これでいいであろ?」
「今のひょっとして、僕の真似のつもり?」
「つもりも何もそっくりだったであろ。お前もそう思わんか?」
一番前に座っていたひとりに、いきなり尋ねた。
予想外の行動に堪えきれず、その子は笑い出した。
釣られて、連鎖的な笑いが広がっていく。
「はいはい。皆さん、静かに」
ぱんぱんと手を叩いて、歩美が割り込んできた。
呆れ半分、苛立ち半分の微妙な表情になっている。
「個性的な挨拶ね。とても面白かったわ。もう十分に解ったから席につきなさい」
窓際の一番奥。ふたつ並んだ空席を指差した。
事の始まりは、数日前。九月五日の木曜に遡る。
※ ※ ※
──九月五日(木)──
「あれから、『死の九番』について調べみたんだ。警察の資料も見せてもらってね」
夕食後の食卓で颯一が切り出した。
颯一達が暮らす幸泉市は典型的なベッドタウン。
朝夕のラッシュ時刻、快速列車を使えばオフィス街まで片道三十分の距離にある。
メインステーションである幸泉路駅近辺は、急速な都会化が進んでいる。
しかし、駅から少し離れた宅地は閑静で暮らしやすく、地価も手頃。
将来性は十分と言えるだろう。
新興住宅地の中心から北寄りは、高層マンションが立ち並ぶエリア。
その中の一棟、四階に颯一とリンの部屋がある。
間取りは2LDK。
「まずこの事件が起こっているのはY県の『聖アンドリューズ学院』。ここは明治時代に宣教師が開いた私塾が母体の伝統ある学校らしい。うちの学校との提携として、一ヶ月間の短期留学させてもらうっていう設定なんだ」
「少々無理がある話だが、嘘というのは荒唐無稽なくらいがいいのかも知れんの。しかしY県とは颯一の実家より遠いではないか。どうやって通うのだ?」
湯飲みのお茶をすすりながらリンが尋ねる。
部屋着のゆったりとした橙のパジャマ姿だ。