【02-16】
水曜最後は西校舎の裏にあるチャペルでの授業。
聖書の一節を全員で読み上げた後、聖歌の合唱となったのだが。
「とても素敵な歌だったわ」
鍵盤から指を離して微笑む。
誰もがイメージする黒を基調とした修道服に身を包んだ女性。
このチャペルで宗教についての授業を受け持つシスター、音羽明星だった。
舞の談通り、くっきりとした目鼻立ちの美人。
髪は頭の後ろで、丁寧にまとめられている。肌も艶があり健康的だ。
雰囲気は若々しく、二十台半ばくらいに見える。
「えっと、常磐さんだったかしら? あ、お姉さんがいらっしゃるのよね。凛子さんと呼んだ方がいいかしら?」
「リンでよい。その方が慣れておる」
リンもにんまりと笑みで答えた。
多感な女子高生、全員で合唱と言うのは照れ臭く。
皆、声を出すか出さないかくらいのボリュームなのが通例。
そんな中、堂々と歌ったのがリンだった。
転校生の奇行にクラスメイト達は薄笑いを浮かべた。
しかし、その顔は澄み切った歌声と隙のない旋律に凍りついてしまう。
数秒後には誰もが歌うのを止め、耳を傾けていた。
中には感動で涙を浮かべている者すらいる。
リンの見事な歌に、シスターの明星もオルガンを止められなかった。
結果、授業が終わるギリギリまで、弾き続けてしまったのだ。
「つい夢中になって、時間が経つのを忘れちゃったわ。来週はリンさんをお手本にして、みんなで歌いましょう」
言いながら腰を上げた。と、同時にチャイムが鳴る。
起立、礼。クラス委員である舞の号令で授業は終了。
全員がのろのろとドアに向かう。
「リンさん。ちょっといいかしら?」
ドアに向かうリンを明星が呼び止めた。
「もし良かったら合唱部に参加してみる気はない? 私が顧問を勤めているんだけど」
「合唱か。いや、遠慮しよう。この学校にいるのもひと月と決まっておるしな」
と言いながらも、ちらりと颯一を見やる。
「折角だし、見学くらいさせてもらったらどうかな。いい経験になると思うよ」
「む。そうか。何事も経験は大事じゃからな」
「颯香さんも一緒に参加してみない」
「僕は遠慮しておきます。どっちかって言うと音痴だし」
「そう、残念ね」
大袈裟なくらいがっかりと肩を落とした。
そんなストレートな感情表現は、とても好感が持てる。
「合唱部の活動は月・水・金なの。活動場所はここよ。今日の放課後もあるから、予定がなければ顔を見せてくれると嬉しいわ」
「急に言われてもな。今日は今日で予定が……」
舞を交えて、三人で今後の作戦会議をするつもりだった。




