【02-15】
陽菜以上に事態が把握できないのは颯一だった。
昨夜、電話を掛けた時には普通だった舞が、今日はこの状態。
訳が解らない。
胸の件で暗殺されるのかとまで疑ってしまう。
「颯一、安心せい。余が護ってやる」
「うん」
「それ、どういう意味? 喜んでもらいたくて、頑張ったのに」
段々と潤んでくる瞳。今にも涙がこぼれそうだ。
そんな舞の様子に、颯一とリンは顔を見合わせた。
小さく拳を作って暴力による解決を訴えるリンに対し、颯一は首を振った。
あくまで対話での解決が第一と伝える。
「あの、瑞穂さん。お弁当作ってくれたのは嬉しいんだ。ただ、豪華過ぎて、そのなんいうか、ビックリしちゃって。ホントに食べていいのかなって」
「豪華過ぎる?」
舞がちらりと視線を移した。隣に座る陽菜に。
微かな沈黙。
意見を求められているのが自分だと気付いて、陽菜は急いで頷いた。
何度も何度も。
「豪華だよ。豪華過ぎるって。こんなの誕生日でもない限り目に掛かれないよ。ビビるのも仕方ないって。いやぁ、私だったら、遠慮して食べれないって」
挙動不審なくらいの早口で主張。
「そう言われるとそうかも。朝まで時間があるからって、作りすぎちゃったかな」
ブツブツと自問する。
「朝まで」
颯一と陽菜の声が重なる。
徹夜で作っていたという事実に戦慄せざるを得ない。
「ね、舞が一生懸命作ってくれたんだし、食べてあげていいんじゃないかな」
「え? あ、そうだね。頂いていいかな?」
舞が頷くのを確認すると、直ぐに自分の箸でハンバーグを口に運んだ。
「うん。とっても美味しいよ」
そのひと言に舞は耳まで真っ赤にして俯いた。
※ ※ ※
静けき真夜中、貧しうまや。
リード・オルガンに合わせて紡がれる歌声は、まるで透き通った水のようだった。
いつもは退屈そうにしている生徒達も、お喋りや携帯を弄るのを止めて聞き入ってしまう。
神のひとり子は、みははの胸に。
声の主である少女は膨らみのない胸に右手を置き、軽く目を閉じていた。
神に祈りを捧げる敬虔な信者を思わせる。
眠りたもう、やすらかに。
最後の一節を終えた。
オルガンの音が止まり、歌声が消えた。
それでもクラスメイト達はひと言も発さず、余韻をゆったりと味わう。




