【02-14】
「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。況や算無きに於てをや、よね」
戦いは勝算の多い方が勝つ。
孫子を呟きながら、ノートパソコンを起動し、検索ページに移動。
慣れた手つきでキーワードを入力し、表示されたサイトをざっと眺める。
「ん? 好きな男の子の胃袋を鷲掴みにするのが勝利の秘訣? なんか物騒ね」
右手をにぎにぎ。自分の貫き手なら肉を突き破って掴めるな、
と考ながら記事をクリック。詳細を読み込んだ。
「あ、そういうことね。ふうん。男の子って手料理に弱いんだ。なんだ、楽勝じゃない」
にんまりと笑みを浮かべる。
常に死が身近にある舞にとって、食は最大の楽しみ。
料理はプロ並の自信がある。
「凡そ戦いは正を以て合い、奇を以て勝つ。まずは正攻法で攻めるべきね。お弁当でさりげなくアピールよ。今からなら、朝までに十分間に合うし」
スマートフォンで、今日のお詫びに明日の昼食をご馳走する旨をメールした。
よしっと椅子から立ち上がり、両の頬を平手で叩いて気合を入れる。
が、呻きながら蹲ってしまう。
三倍に晴れ上がった頬には、余りに酷な所業だった。
※ ※ ※
──九月十一日(水)──
舞が伸ばした箸に、大口を開けて食いついた。
もぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込んだ。
微塵の気後れもない食べっぷりに、ドン引きだった陽菜が思わず感嘆を漏らす。
「ふむ。良い味じゃ」
「ちょっと! なにす……」
舞は溢れそうになった感情を飲み込んだ。
学校内では常に丁寧で物腰柔らかな、委員長らしいキャラクターを演じているのだ。
奥歯を軋ませながらも、笑顔をキープ。
今度はひと口カツを摘まんで、颯一に近づける。
「はい。颯香さん」
「あの、自分で食べられるから」
「遠慮はいりませんよ。あぁんしてください。あぁぁぁぁん」
「はぐ! ふむ。これも良い味じゃな」
またも横から強奪したリンが、もぐもぐしながら舞を一瞥。
勝ち誇った顔になる。
「リンちゃん、自分の分は自分で食べようね」
微笑みを浮かべてはいるが、その目は笑ってないない。
正確には怒っている。
「ならお前も、唾液が付着した汚らしい箸を、颯一に近づけるでない」
「い、嫌な言い方しないで……しないでください。これは関節キスって言うの……言うんです」
舞の主張に陽菜が息を飲んだ。軽い恐慌状態に陥っている。




