【02-13】
「何か特別なところがあるのかな?」
なんとなく呟いた言葉。
それが自身の中で妙に反応した。
「特別な男の子。特別な相手。特別な人」
しっくり来る単語を探している内に、鼓動が早くなってきた。
不思議と不快感はない。むしろ心地良さすらある。
「なに、どういうこと。私、すごく変なこと考えてない?」
顔が上気していくのを感じる。胸の奥が熱を持ち始める。
ごくりと喉が鳴った。
舞には小さい頃から抱いている夢がある。それは恋愛結婚をする事。
子供っぽい夢と笑うなかれ。術者と恋愛は非常に縁遠いのだ。
術者は人知れず怪異と戦う者達。その生活とは一般人と根本的に異なり、接点が少ない。
また、術者は家系を重んじる。その為、家が取り決めた相手と見合いをして結婚となる場合が殆どだ。
現に舞の両親も見合いである。
両親が幸せなのは間違いない。
それでも舞は恋愛結婚がしたいのだ。
「ひょっとして、運命の人?」
暴走した乙女の思考は、想像すらしてなかった結論に辿り着いた。
「待って待って待って待って待って。冷静によ冷静によ冷静によ冷静によ」
誰もいない自室にもかかわらず、ぱたぱたと手を振り、周囲に落ち着くよう促す。
ふうっと深呼吸をしてから、状況を冷静に分析を始めた。
まず、男子と話すのが苦手な自分が、颯一となら普通に接する事ができる。
さっきの電話でも変なところはなかった。
これは相性の良さを表しているだろう。
次に、颯一が名門緑桜家の人間であるという点。
両親を納得させるには十分な家系だ。
しかも術者という存在を理解している。
結婚後の生活も上手くいくはずだ。
更に、颯一という個人について。
正直、ルックスは好み。線の細いところが良い。
性格も申し分ない。あれほどの事をした舞に対し、ひと言の非難もなかった。むしろ先に謝罪を表明し、協力を申し出てくれたほど。
なんという懐の広さ。
考えれば考えるほど、運命の出会いではないかと思える。
ふたり寄り添って歩いたり、向かい合ってパフェを食べたり、共に怪異と戦ったり。
その他、色々なシーンを妄想しているうちに、口元がだらしなく緩んでくる。
ずきんと頬の痛みが、舞を現実に引き戻した。
「そっか。こんな感じなのね。運命って」
難解な証明を終えた学者のように自信を持って頷く。
舞の中で仮定は既に確信に変わっていた。
「こうしちゃいられないわ」
夏休み。
実家に戻った時に姉が言っていた。恋は戦いだと。




