【02-11】
難しい質問。
どう答えるのが正解か、一瞬戸惑いはしたが。
「リンの言う通りだよ! もう、全然忘れちゃったから!」
「忘れたですって! 私の胸を見たくせに! 私を汚したくせに!」
どうやら見事に不正解を選択。しかもリテイクはできない。
「もう! 絶対に許さないわ!」
「ちょっと落ち着いて! まずは僕の話を聞いてよ!」
「暴れるな! こら! 部屋の中で手裏剣を投げるでない!」
ゴタゴタと騒ぐ三人を見ながら、瑞が大袈裟に肩を竦めた。
「やれやれ。実に騒がしい連中でやんすね」
「これが人間特有の青春という物だ。微笑ましいではないか」
相棒の翔は満足そうに頷いている。
「青春でやんすか。あっしは興味ありやせんでね。とりあえず餌の準備をしやしょうか」
「ふむ。異論なし。若者の邪魔をするのは無粋故な」
言いながら二体の小鬼は部屋を後にした。
※ ※ ※
「もう大丈夫。ちょっと気が動転してただけだから。心配しないで。明日、ちゃんと学校も行くから。うん。じゃあ、おやすみ」
通話を切ると、舞は愛用のスマートフォンを置いた。
時間は午前一時を過ぎたところ。
舞は学院から郊外に七つ目の駅に建つ、築十五年のマンションに住んでいる。
表向きは父親とのふたりで、となっているが実際はひとり暮らしだ。
ここは『鬼斬り』が拠点として押さえてある場所のひとつで家賃不要。
卒業までの使用許可を貰っている。
力なくため息をついて、デスクに突っ伏した。
寮からは徒歩で戻った。
ジャージに腫れ上がった顔で電車に乗るのも、タクシーを呼ぶのも嫌。
『鬼斬り』の体力を考えれば造作もない事だが、薬の反動で痛む身体を押して走るのは少々辛かった。
途中で何度も休憩しつつ、ようやく部屋に到着。入浴と食事を済ませたら、こんな時間だ。
「今日は散々だったわ」
舞の部屋はシンプルだ。
ベッドにデスクセット、それにプラスチック製の三段チェスト。ドレッサーも小さく安価な物。
唯一、デスクの上にあるノートパソコンだけは高性能の最新機種だ。
ゆっくり頭をもたげると、引き出しからハンドミラーを取り出す。
どす黒く腫れ上がった左頬に湿布を貼った。
結果、顔の半分近くが湿布に覆われるという有様。
輪郭も歪な形になっている。
「明日、休みたい」
 




